俳諧師はいかいし)” の例文
俳諧師はいかいし松風庵蘿月しようふうあんらげつ今戸いまど常磐津ときはづ師匠しゝやうをしてゐるじついもうとをば今年は盂蘭盆うらぼんにもたづねずにしまつたので毎日その事のみ気にしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ありや何だい、質屋の亭主だつていふが、野幇間のだいこだか、俳諧師はいかいしだか解つたものぢやない。あんな物識顏ものしりがほをする野郎は俺は嫌ひさ」
この詩と句とによって考えると、平五郎という俳諧師はいかいしが、遥々はるばるここへ旅に来て、同好の士がこれを迎えた。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
田中田ンの寒風もいとわず、土手はチラチラと廓通さとがよいの人影がたえない。と——向うから、俳諧師はいかいしか何かを取巻きにつれて、おさまった若旦那がほろ酔いでくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
番頭、用人といえばいかめしいが、いずれも能太夫、狂言方、連歌俳諧師はいかいし、狂言作者などの上りで、そのなかには島田十々六とどろくという品川本宿の遊女屋の次男坊までいた。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
芭蕉ばしょう其角きかく嵐雪らんせつなどの俳諧師はいかいし、また絵師では狩野家かのうけ常信つねのぶ探信守政たんしんもりまさ友信とものぶ。浮世絵の菱川吉兵衛ひしがわきちべえ鳥井清信とりいきよのぶ浄瑠璃じょうるりにも土佐椽とさのじょう江戸半太夫えどはんだゆうなど高名な人たちもたくさん出ている。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
このうつくしき令嬢と「ウィンブルドン」に行かなかったのは余の幸であるかはた不幸であるか、考うること四十八時間ついに判然しなかった、日本派の俳諧師はいかいしこれを称して朦朧体もうろうたいという
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可愛かわいや一向専念の誓を嵯峨さが釈迦しゃかたてし男、とし何歳いくつぞ二十一の春これより風は嵐山らんざんかすみをなぐってはらわた断つ俳諧師はいかいしが、ちょうになれ/\と祈る落花のおもしろきをもながむる事なくて、見ぬ天竺てんじくの何の花
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俳諧師はいかいし生花師いけばなし等の無用の遊歴は差し置くまじき事、そればかりでなく、狼藉者ろうぜきものがあったら村内打ち寄って取り押え、万一手にあまる場合は切り捨てても鉄砲で打ち殺しても苦しくないというような
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俳諧師はいかいし松風庵蘿月しょうふうあんらげつ今戸いまど常磐津ときわず師匠ししょうをしているじつの妹をば今年は盂蘭盆うらぼんにもたずねずにしまったので毎日その事のみ気にしている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兇賊『千里の虎』は、つんぼ俳諧師はいかいし其月堂鶯谷きげつだうあうこくだつたのです。年は精々四十七八、あんな老人になりすました非凡の變裝に、新三郎も平次も舌を捲くばかりでした。
その翌日のお正午ひる少し前、池田良斎は、俳諧師はいかいしの柳水と共に浴槽の中につかっておりました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
薄茶紬うすちゃつむぎ道行みちゆきに短い道中差、絹の股引に結付草履ゆいつけぞうりという、まるで摘草にでも行くような手軽ないでたち。茶筅ちゃせんの先を妙にへし折って、儒者じゅしゃともつかず俳諧師はいかいしともつかぬ奇妙な髪。
随行ずいこうとしては、宿将、旗本、小姓衆から銃隊弓隊、また赤柄あかえの槍組とつづき、医者、茶道衆、祐筆ゆうひつ俳諧師はいかいし沙門しゃもん、荷駄隊にいたるまで——見送っても見送っても人馬の列は容易に尽きない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは一茶いっさという俳諧師はいかいしの書いておいた句です。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きいた風な若旦那は俳諧師はいかいしらしい十徳じっとく姿の老人と連れ立ち、角隠つのかくしに日傘をかざしたうわかたの御女中はちょこちょこ走りの虚無僧下駄こむそうげた小褄こづまを取った芸者と行交ゆきちがえば
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
野幇間のだいこのノラクラ俳諧師はいかいしと、金だけはフンダンに持つて居る、日當りの惡い若旦那と、は持てゞ女を口説かうと言ふ、量見違ひの浪人者とそんなのが音頭取りで」
旅の俳諧師はいかいしでございましてね、このたび、信州の柏原かしわばら一茶宗匠いっさそうしょうの発祥地を尋ねましてからに、これから飛騨ひだの国へ出で、美濃みのから近江おうみと、こういう順で参らばやと存じて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立田川清八という関取が飛びだす、俳諧師はいかいしの貞佐が飛びだす。わいわい言いながらはぐらかしてしまった。播磨守は苦笑いをしながら盃を含んでいたが、白けた声で主水にいった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その晩、真言坂しんごんざかの上の、俳諧師はいかいし荷亭かていの宅では運座うんざがあった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安永から天明の頃、江戸の俳諧師はいかいし二鐘亭半山にしょうていはんざんなるものの書いた「見た京物語」には
円き頭ばかりは何とも致方無御座いたしかたござなく候間、俳諧師はいかいしかまたは医者のていよそおひ、旅の支度万端とゝのひ候に付き、お蔦夫婦の者に別れを告げ、教へられ候道を辿たどりて、その夜は川崎宿かわさきじゅくに泊り申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを取卷くのは味噌摺り俳諧師はいかいしに、野幇間のだいこ繪描き、貧乏御家人と言つた顏觸れで、そんな手合を呼び集め總勢二十三人、昨夜ののちの月、即ち九月十三夜の月見の宴を白鬚の寮にもよほしたのでした。
俳諧師はいかいしと、山の案内人と、猟師と、宿の番人と、それから最近にかおを見せた山の通人——ともかくも、こんなに多くの、かなり雑多な種類の人が、ここで冬を越そうとは、この温泉はじまって以来
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)