仄聞そくぶん)” の例文
仄聞そくぶんするところによれば、クロオデル大使はどう云ふわけか、西洋輓近ばんきんの芸術に対する日本人の鑑賞力に疑惑を抱いてゐるさうである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もし現在のジャーナリズムにそのような弱いところがなかったならば同氏によって『文芸』に推薦されたと仄聞そくぶんする勝野金政の小説などは
文芸時評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
先の三将方も、水治の難は御承知でありながら、工事のいたし方を仄聞そくぶんするに、その自然の力へ向って、人力で打ち勝とうとなされたようです。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同君の恋愛観など親近の人たちから仄聞そくぶんすると、よほど私の抱有しているものに酷似していてはなはだ思い半ばにすぐるときが少なくないのである。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
とにかく、二十数人の肉親すべて、私があたりまえの男に立ちかえって呉れるよう神かけて祈って居るというふうの噂話を、仄聞そくぶんすることがあるのである。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また彼女の過去に、そのような事件があるのを私は度々、目撃しているし、仄聞そくぶんしたこともある。それ故、私は姉よりも強固に、彼女をひきとめ、その夜、一緒に寝た。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
鉢肴はちざかなまたあらひとなへ、縁日えんにち金魚きんぎよどんぶりかせて——(こほりへてもいゝ)——のちにひきものにたせてかへす、ほとん籠城ろうじやううまあら傳説でんせつごとき、すご寸法すんぱふがあると仄聞そくぶんした。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仄聞そくぶんするところに依ればひそかに九大精神病科の自室に引返し徹宵てっしょう書類を整理していたともいう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仄聞そくぶんするところによると、ある老詩人が長い歳月をかけて執筆している日記は嘘の日記だそうである。僕はその話を聞いて、その人の孤独にふれる思いがした。きっとさびしい人に違いない。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
師範学校に入ったのも、その業をえて教員となったのも、皆学資給せざるがために、やむことをえずしてしたのである。既にして保は慶応義塾の学風を仄聞そくぶんし、すこぶ福沢諭吉ふくざわゆきちに傾倒した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
僕は二三の小説を挙げて、僕の仄聞そくぶんする売れ高を答へた。それらは不幸にも氏の著書より、多数は売行きが好いに違ひなかつた。
岩野泡鳴氏 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仄聞そくぶんするに、曹操は二人の亡きあとへ、毛玠もうかい于禁うきんを登用して、水軍の都督に任じ、もっぱら士気の刷新と調練に旦暮たんぼも怠らず——とかいわれていますが、元来
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仄聞そくぶんするところに依れば団長B・ストーン氏は目下早慶二大学と野球試合のため来朝しおる××軍艦××××号に逃げ込みおる形跡ありとの報あるも、果して事実なるや否や不明なり。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近所の質屋の猛犬を蹴殺したとかの噂も仄聞そくぶん致し居り、甚だ薄気味わるく御座候えば、老生はこの人物に対しては露骨に軽侮けいぶの色を示さず、常に技巧的なる笑いを以て御挨拶申上げ居り候。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
加賀耿二氏は今から七・八年前「綿」という一作を持って文学の分野に現れた作家であるが、それ以前には組合の仕事、つまり当時の政治的な組織の活動をやっておられたように仄聞そくぶんしている。
既に然り、誰か又予を目して、殺人犯の嫌疑ありとすものあらん。しかも仄聞そくぶんする所によれば、明子はその良人の死に依りて、始めて蘇色ありと云ふにあらずや。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仄聞そくぶんするところに依ると、大兄は拙作の小説宮本武蔵のうちに出した本位田又八という人物と同郷同姓であるために、帝大の学生諸君から、「又八、又八」という綽名ニックネームをもって呼ばれ
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわく、婦人に参政権を与えられたるは慶賀に堪えざるも、このごろの当道場に於ける助手たちの厚化粧は見るに忍びざるものあり、かくては、参政権も泣きます、仄聞そくぶんするに、アメリカ進駐軍も
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
予が先輩にして且知人たる成島柳北なるしまりうほく先生より、彼が西京祇園さいきやうぎをんの妓楼に、雛妓すうぎいまだ春をいだかざるものを梳櫳そろうして、以て死に到らしめしを仄聞そくぶんせしも、実に此間の事に属す。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、近頃又広津和郎かずを氏の同じ言葉を正宗白鳥氏にも加へてゐると云ふことを仄聞そくぶんした。僕は両氏の用ひられる「人生の従軍記者」と云ふ言葉をはつきり知つてゐない訣ではない。
なほ二三、予が仄聞そくぶんした事実をつけ加へて置けば、ドクトルは当時内科の専門医として有名だつたと共に、演劇改良に関しても或急進的意見を持つてゐた、一種の劇通だつたと云ふ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
先生になお邦文「支那芝居」の著述あるを仄聞そくぶんしたれば、先生に請うて原稿を預かり、朝鮮を経て東京に帰れる後、二三の書肆に出版を勧めたれど、書肆皆愚にして僕の言を容れず。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)