一手ひとて)” の例文
飲まんと舌がもつれるというアル中患者だから止むを得んだろう……取調べの一手ひとてにソンナのが在りやせんか……アッハッハッ……。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
泣くなよ、醤。お前は小便小僧しょうべんこぞう時代から泣きべそじゃったな。東にくすのきの泣き男あり、西に醤買石ありで、ともに泣きの一手ひとてで名を
「木剣の一撃で大皿を、まるでお豆腐のようにお切りなすった秘術——あれこそ古中条流『忍び太刀』の一手ひとてでござりましょう」
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幸い、さる人のお世話で、今度松坂町のさる御大家の仕立物を一手ひとてで縫わせていただくことになりました。まあ、これを見てくださいませ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
と、又八は色をうしなって、にわかに道をひき返してくると、こはいかに、すでに逃げみちを断って、ふいに目の前にあらわれた一手ひとての人数。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この紀事の七尾湾も一手ひとての風にしぶきを飛ばす、霊山の威を思うとともに、いまも吹きしむおもいがして、——大笹のの宿に、ゾッと寒くなりました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
横竪よこたての目盛りは一手ひとてごとにうまって行くのだから、いかに呑気でも、いかに禅機があっても、苦しくなるのは当り前である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは本町を西に進んで、迂廻うくわいして敵の退路を絶たうと云ふ計画であつた。しか一手ひとてのものがことごとあとへ/\とすざるので、脇等三人との間が切れる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
塙団右衛門ばんだんえもんほどのさむらいの首も大御所おおごしょの実検にはそなえおらぬか? それがし一手ひとての大将だったものを。こういうはずかしめを受けた上は必ずたたりをせずにはおかぬぞ。……
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの小兵の男、何者とも知らねど槍の扱いぶり至極しごくめずらしい、一手ひとて応対を致してみたいと存じます」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長刀なぎなた一手ひとてぐらいは知っても居ようが、高の知れた女の痩腕、汝等うぬらに斬られてたまるものか、今まで上手を使って居たが、こう云い出したからは己も男だ、□□□□□□□□□□□□□
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
政宗の答は胸がくように立派で、外記は甚だ不面目であったが、外記だとて一手ひとてさきが見えるほどの男ならば政宗が此の位の返辞をするのは分らぬでもあるまいに、何で斯様かようなことを云ったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
薙刀の一手ひとてひらめきいつくしき真夏なるなりしづもる塵に
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
畜生め、若い時は、一手ひとて、手裏剣も心得たぞ——とニヤニヤと笑いながら、居士が石を取ってったんです。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平常ふだんは危ない芸当を平気でやっている軽業の美人連も、実地の修羅場しゅらばでは、どうしていいかわからないで一かたまりになってふるえていると、そこへ一手ひとての折助と遊び人とが
『じゃあ、おれが一手ひとて、御指南しようか』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これ!」と向直って膝に手を置いた、後室は育柄そだちがら長刀なぎなた一手ひとても心得ているかして気が強い。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しめきん七十圓なゝじふゑん——もしそれわたしをして幹事かんじたらしめば、たちまちにおぼん軍用ぐんようてようものを、軍規ぐんき些少いさゝかてきにかすめざる瀧君たきくんなれば、こゝろざしはうけた——あるひ新築しんちくいはひあるひをどり一手ひとて祝儀しうぎ
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小児こども飴菓子あめがしを売って一手ひとて踊ったり、唄ったり、と同じ格で、ものは違っても家業の愛想——盛場さかりばの吉原にさえ、茶屋小屋のおかっぱお莨盆たばこぼんに飴を売って、じじやあっち、ばばやこっち
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、さまで旅らしい趣はないが、この駅を越すと竹の橋——源平盛衰記に==源氏の一手ひとて樋口兼光ひぐちかねみつ大将にて、笠野富田を打廻り、竹の橋の搦手からめてにこそ向いけれ==とある、ちょうど峠の真下の里で。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金將きん一手ひとてあがぎましたよ。」
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)