杉の茂りのうしろ忍返しのびがえしをつけた黒板塀くろいたべいで、外なる一方は人通ひとどおりのない金剛寺坂上こんごうじさかうえの往来、一方はそのうち取払いになってれればと、父が絶えず憎んで居る貧民窟ひんみんくつである。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)