「南無大師遍照金剛へんじょうこんごう」とせわしく唱えながら、ようやく太陽の昇ったのを見て、いそいで山をくだり、京都へ帰って、薬やはりの治療にいそしんだのである。
南無なむ大師、遍照金剛へんじょうこんごうッ! 道の左右は人間の黒山だ。おひねりの雨が降る。……村の嫁女は振袖で拝みに出る。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)