逆説パラドックス)” の例文
その暗影と云うのは——、たしかに彼の心中に一つの逆説パラドックスがあって、それを今の伸子の言葉が、微塵と打ち砕いたに相違なかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてこれこそ生きることの逆説パラドックスであつて、この法悦は人が最も旺んに生きている時に来るのであり、人が生きていることの完全な忘却として来るのである。
この逆説パラドックスは正しいと私は思う。生命の向上は思想の変化を結果する。思想の変化は主張の変化を予想する。生きんとするものは、既成の主張を以て自己を金縛かなしばりにしてはなるまい。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一種の鋭い直覚が、いま再び彼女のなかによみがえって来ながら、そういう扁理の不幸を絹子に理解させるためには、いま言ったようなごく簡単な逆説パラドックスだけで充分であることを彼女に知らせたのだ。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
だって、ダンネベルグ事件とそれ以後のものを、二つに区分して見給え。僕の持っているあの逆説パラドックスが、綺麗きれいさっぱりと消えてしまうじゃないか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ところで、ここに奇妙な逆説パラドックスがあるのです。その殺人が、かえって五体の完全な人間には不可能なんですよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
所が支倉君、ここに途方もない逆説パラドックスがあるのだよ。と云うのは、全くあり得ないような事だけれども、この女にはたしか、絶命するまで意識があったに違いないのだ。
夢殿殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「たしかこの花降しは、警察の注意で、今夜からしたのでしたね。だが、これに僕は、妙な逆説パラドックスを感じているんですよ。あの真に迫った殺し場を、隠そうとしたものが、却って……」
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)