綫香せんこう)” の例文
議論の火の手は又さかんになる。純一は面白がって聞いている。熾んにはなる。しかしそれは花火綫香せんこうが熾んに燃えるようなものである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
墓にまいる人にしきみ綫香せんこうを売り、また足を休めさせて茶をも飲ませる家で、三十ばかりの怜悧かしこそうなおかみさんがいた。わたくしはこの女の口から絶望の答を聞いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浜町の師匠は亡人の姉ふさ、女師匠は三十六歳で未亡人となった亡人の妻みつである。二人の女は許諾した。そこへ勝四郎は出向いて来て、勝三郎の木位もくいを拝し、綫香せんこう手向たむけた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)