渠女かれ)” の例文
で、聞く一言一言が、渠女かれの身に取ると、胸に釘を打たるる思ひ。その場へ昏倒するのではないかと思はれた事も幾度かであつた。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
渠女かれは始終、涙と太息ためいきとで聞いてしまつて、さて心の糸のもつれもつれて、なつかしさと切なさとに胸裡は張り裂けんばかり、銀が今の身の上最愛いとしと思ひつめては、ほとんど前後不覚。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
渠女かれは、銀が三年以来このかたの惨澹たる経歴と、大酒飲みになつた事と、真面目まじめに働くがいやになつた事と、この世には望みもなければ、楽しみといふものの光明も認められぬやうになつた事など
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)