むくげ)” の例文
沢子は少し身を退いて、薄いむくげのありそうな脹れた唇を歪み加減に引結んで、下歯の先できっと噛みしめていた。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
千登世は朝髮をく時ぬけ毛を束にして涙含み乍ら圭一郎に見せた。事實、彼女の髮は痛々しい程減つて、添へ毛して七三に撫でつけてむくげを引きしられた小鳥の肌のやうな隙間が見えた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
薄いむくげが生えていそうな感じのする少し脹れ上った唇を、歪み加減にきっと結んで、やや頑丈な鼻の筋が、剃刀を当てたことない眉の間までよく通り、多少尻下りに見えるその眉の下に
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
むくげのありそうな柔かい薄い皮膚に代え、眼の奥の潤みを多くし、唇の肉付を薄め、指の節をまるめ、爪の生え際の深みを浅くし、首筋の肉をぼやぼやとさせれば、それで若やぐのだったから。
小説中の女 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)