殷紅あんこう)” の例文
其幅は極めてひろし。蒸氣の此流を被へるものは火に映じて殷紅あんこうなり。四圍は暗黒にして、空氣には硫黄の氣滿ちたり。
薔薇ばら、大方は散りて殷紅あんこう色の花が一、二輪咲残つて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
熔けたるいはほの山腹を流れ下るさま、血の創より出づる如し。嶺の上に片雲あり。その火光を受けたる半面は殷紅あんこうなり。されど此偉觀の我眼に入りしは一瞬間なりき。
葡萄圃は多く熔巖におほはれ、父とわれとの立てる側なる岩は其光を受けて殷紅あんこうなり。寺院の火海の中央に漂へるさまはノアの船に異ならず、その燈の未だ滅せざるが微かに青く見えたり。