新字:寛永通宝
二つ、三つ、宙を切つて飛ぶ寛永通寶くわんえいつうはうの波形錢は、匕首のこぶしを叩き、鼻を打ち、左のまぶたをかすめてハツとたじろぐ曲者。
一夜のうちに寛永通寶くわんえいつうはうが、ピカ/\する一分金になる——そんなことは、今の人では信じ兼ねるでせうが、その頃の人は、極めて素朴そぼくに、暢氣のんきに、この奇蹟を受け容れて了ひました。
八五郎の懷中などはこと/″\く見通しさ。その手紙の入つて居る大一番の野暮な紙入の中に、質札しちふだが二枚と、一昨日兩國の獸肉屋もゝんじいやで掻拂つた妻揚枝つまようじが五六本、それから寛永通寶くわんえいつうはうが五六枚入つてゐる筈だ。