亜鉛屋根トタンやね)” の例文
かんかん日の当っていた後の家の亜鉛屋根トタンやねに、蔭が出来て、今まで昼寝をしていた近所が、にわかに目覚める気勢けはいがした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
西洋人の別荘も見渡した所、気の利いた構えは一軒も見えない。皆烈しい日の光に、赤や青のペンキを塗った、卑しい亜鉛屋根トタンやねを火照らせている。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土蔵どぞうづくりの雑貨店なども交っているが、その間の路地を覗くと、見るも哀れな裏長屋が、向きも方角もなく入り乱れてぼろぼろの亜鉛屋根トタンやねを並べている。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は焼パンを齧りながら、時々ぼんやり窓の外を眺めた。窓の外には往来の向うに亜鉛屋根トタンやねの古着屋が一軒、職工用の青服だのカアキ色のマントだのをぶら下げていた。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)