足早あしばや)” の例文
その内に大声に人を喚んだ声を聞いて、小屋から多勢の者がどやどやと出てきたので、女は手を離して足早あしばやに嶺の方へ上ってしまった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
燕作は、野武士のぶしの仲間から、韋駄天いだてんといわれているほど足早あしばやな男。をさげて、昌仙からうけた密書をふところへ深くねじおさめ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
再びかえって来はしないぞ、今日こそ心地こころもちだとひとり心で喜び、後向うしろむつばきして颯々さっさつ足早あしばやにかけ出したのは今でも覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
といひかけてつツち、つか/\と足早あしばや土間どまりた、あまのこなしが活溌くわツぱつであつたので、拍手ひやうし黒髪くろかみさきいたまゝうなぢくづれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は黙って煙草たばこを吹かした。それから急に気がついたように書物を伏せて立ち上った。そうして足早あしばやに階子段をまたぎしぎし鳴らして下へ降りた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マリ子は、足早あしばやに、廊下を歩いて、次の部屋の前に立った。すると、部屋の中から、じいじいじい、じいじいじいというかなり高い物音がひびいてきた。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらくののち、少年はおもむろに振り返り、足早あしばやにこちらへ歩いて来る。が、顔ばかりになった時、ちょっと立ちどまって何かを見る。多少驚きに近い表情。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
足早あしばやに立去しはおそろしくもまたたくみなるくはだてなり稍五ツ時頃に獵師れふしの傳九郎といふが見付みつけ取散せし笈摺おひずる并に菅笠すげがさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二郎じろうは、いつか、みんなからおくれて、あせながしてあるいていったびっこのうまおもしました。また、同時どうじに、足早あしばやあるいていった健康けんこううま姿すがたおもしました。
びっこのお馬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
横浜から汽車が着いて改札口からはいつて来る人々は皆足早あしばやに燕のやうに筋違すぢかひに歩いて出口の方へく。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まるで二人で足早あしばやを競つてゐるみたいな形になつて、さうして、めつきり無口になつた。三厩の酒の酔ひが醒めて来たのである。ひどく寒い。いそがざるを得ないのである。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
喬生はふと魏法師のいましめを思いだした。彼はいやな気がしたので足早あしばやに通り過ぎようとした。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そしてなり速い足どりで歩いて行きました。それが実際また、あまり速かったので、パーシウスは足早あしばやの友達クイックシルヴァについて行くのが、少し難儀なんぎになって来ました。
いつも、すらりと足早あしばやにあるいてゆく彼女の長い足つきは、そのままかかとの高い女靴をはかせ、その上、スカアトを着けてみたなれば決して見劣りのない西洋人のように見えることである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そしてはっとした様子で、足早あしばやにちかよってくる。矢部は、宮川の手を力一杯ふりきって、逃げてしまった。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三四郎は、しばらく先生の後影うしろかげを見送つてゐたが、あとから、くるまける人が、下足のふだを受け取る手間てましさうに、いそいで這入はいつてくのを見て、自分も足早あしばやに入場した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
広子は目だけ微笑しながら、こう言う妹の恋人の前へ心もち足早あしばやに歩いて行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
男も女も脚絆きやはんして足早あしばやのぼりゆく旅姿こそをかしからめ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「おそろしい足早あしばやな男もあるもの——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人憚ひとはばからず足早あしばやに進んだ。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弦吾と同志帆立とは、酔漢の頭を飛び越えると足早あしばや猿江さるえ交叉点こうさてんの方へ逃げた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人憚ひとはゞからず足早あしばやすゝんだ。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)