饅頭まんじゅう)” の例文
道庵はそれを見ながら、与八を相手にあたりかまわず無茶を言っては、すし饅頭まんじゅうを山の如く取って与八に食わせ、自分も食いながら
饅頭まんじゅう根附といって、円形の扁平へんぺいなものもあり、また吸殻すいがらあけといって、字のように煙草の吸殻をあけるために作られたものもあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「そうだそうだ、奈良の後家様のうちでもらったんだ。紅葉もみじが染めてある。そして、宗因饅頭まんじゅうの『林』という字も染めてあら」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人は老栓の方に大きな手をひろげ、片ッぽの手に赤い饅頭まんじゅうつまんでいたが、赤い汁は饅頭の上からぼたぼた落ちていた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
隆二さんたらこんどの手紙には饅頭まんじゅうづくしです。人を見込んで書くにあらず、自然にそうなるなり、なお悪いと笑うだろうか、とありました。
翌朝、起きぬけに三浦さんの家を訪ねると、いきなり「これを召上って頂戴」と、大きなお盆にお饅頭まんじゅうを山盛り出されたので面喰ってしまった。
三浦環のプロフィール (新字新仮名) / 吉本明光(著)
「仏壇の前に饅頭まんじゅうだの真桑瓜まくわうりだの、やたらに積んで、線香の燃えさしがザクザクあったところを見ると、まんざら忘れたわけじゃないでしょう」
ただ連中饅頭まんじゅうが食いたくなって、しきりに饅頭屋を探したのだが、生憎あいにく一軒も無くって大悄気しょげ。渋川からは吾妻川あがつまがわの流れに沿うて行くのである。
I湾が太平洋へ出ようとする、S郡の南端に、ほかの島々から飛び離れて、丁度緑色の饅頭まんじゅうをふせた様な、直径二里足らずの小島が浮んでいるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分はこの饅頭が喰いたくなったから、腰を浮かして菓子台の前まで来たのだが、そばへ来て、つらつら饅頭まんじゅうの皿をのぞき込んで見ると、恐ろしい蠅だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よだれくり進上しんじょう、お饅頭まんじゅう進上しんじょう」と、お美夜ちゃんは涎くりの手まねやら、お饅頭をこねたり、あんをつめたり、ふかしたりの仕草しぐさ、なかなかいそがしい。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すべて山がかりたる小高い所は、一面に饅頭まんじゅう形の墓場をもって満たされておる。かく墓場の多くなる原因は、一人ごとに別々に墓を設くるためである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
聖天様しょうでんさまには油揚あぶらあげのお饅頭まんじゅうをあげ、大黒様だいこくさまには二股大根ふたまただいこん、お稲荷様いなりさまには油揚をげるのは誰も皆知っている処である。
文化生活、文化村、文化住宅、文化机、文化かまど、文化タワシ、文化丼、文化饅頭まんじゅう、文化煎餅せんべい、文化まめとなって来ると、どこが文化なのか見当が付かぬ。
饅頭まんじゅうのかたちに土を盛り上げた新しいつか、「青山半蔵之奥津城おくつき」とでもした平田門人らしい白木の墓標なぞが、もはやそこに集まるものの胸に浮かんだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また腹がへっていると云うので、茶店で饅頭まんじゅうでも食わせようと思ったら、いそいで藤沢までゆかなければならないと答え、茶店へはいろうとはしなかった。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
次郎は蓆の中央に殿様のように座を占めて、お兼とお鶴とが、左右からつぎつぎにブリキの皿に盛って差出す草の実や、砂饅頭まんじゅうに箸をつける真似をしていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
冗談は抜きにして峠越えのない旅行は、正にあんのない饅頭まんじゅうである。昇りは苦しいといっても、曲り角から先の路の附け方を、想像するだけでも楽しみがある。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
饅頭まんじゅう笠をかぶった車夫の顔からは、雨と汗とが一緒くたになって、だらだら流れ、白い湯気が立っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
巨寺おおでらの壁に見るような、雨漏あまもりあと画像えすがたは、すす色の壁に吹きさらされた、袖のひだが、浮出たごとく、浸附しみついて、どうやら饅頭まんじゅうの形した笠をかぶっているらしい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は饅頭まんじゅうが好きだから死んだらなるべく沢山盛って供えてもらいたい、それは承知したが辞世はないか
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
広い階段は子供が占領して、人形と遊んだり、泥饅頭まんじゅうをつくったり、遊戯をしたりしていた。お寺は一週間七日を通じて、朝から夜まで、礼拝者の為にあけてある。
どうかした拍子に加世子のうわさが出て、それから彼女は押しくら饅頭まんじゅうをしながら、庸三を冷やかしづめだったが、その言葉のなかには、今まで家庭にうずもれていた彼には
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私の三銭の小遣いは双児美人の豆本とか、氷饅頭まんじゅうのようなもので消えていた。——間もなく私は小学校へ行くかわりに、須崎町のあわおこし工場に、日給二十三銭で通った。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「王老師。見ましたか。あれではシャンデリアが饅頭まんじゅうの皮で出来ているとしか思えないですぞ」
パテー型の代りに茶筒の蓋を使っても構いません。そうするとお饅頭まんじゅう位な円いものが出来ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私が林の家へいって、林の妹と三人で「兵隊将棋」をしたり、百人一首をしたり、饅頭まんじゅうなど御馳走ごちそうになったりしたことがあるが、たいていは林が私の家へくる方が多かった。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
お隣りの、あのよく吠える犬が、今夜に限って、ちっとも吠えないところを見れば、君は、ゆうべ、あの犬に毒饅頭まんじゅうを食わせてやったにちがいない。むごいことをする奴だ。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
伏見の饅頭まんじゅう人形などは取分けて面白いと思います。伊勢の生子うぶこ人形も古風で雅味があります。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千住の橋を渡ったところに、鉄兜てつかぶとほどの大きさの饅頭まんじゅうを売っている店があると彼は話した。私はその饅頭には心を惹かれた。出たら一日行って見ようと約束するように話した。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
三人の子供は恭三の家へ入って炉の傍で土産みやげ饅頭まんじゅうを喰い始めた。六つになる女の子があんがこぼれて炉の灰の中へ落ちたのを拾って食べた。恭三は見ぬ振りをして横を向いた。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
橋の中ほどにたたずんで、岸を見ていると、ふと、「本川饅頭まんじゅう」という古びた看板があるのを見つけた。突然、彼は不思議なほど静かな昔の風景のなかに浸っているような錯覚を覚えた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
店の端先はなさきへ出て旦那もお内儀かみさんも見ている処へ抜身ぬきみげた泥だらけの侍が駈込んだから、わッと驚いて奥へ逃込もうとする途端に、ふかしたての饅頭まんじゅう蒸籠せいろう転覆ひっくりかえす、煎餅せんべいの壺が落ちる
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母親は自分で出かけて清三の好きな田舎饅頭まんじゅうを買ってきて茶をれてくれた。母親の小皺こじわの多いにこにこした顔と息子の青白い弱々しい淋しい笑顔とは久しく長火鉢に相対してすわった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そしてね。子供が行くと、お饅頭まんじゅうをくれるの。お母さんがそういったわ」
夏の葬列 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
老人新羅しんら三郎が笙曲を授くるような顔して、ニッとも笑わず語り出でしは、旧伝に絶えてなきを饅頭まんじゅうと名づく、これかえっていたく凶ならず、わずかにあるをカワラケと呼び、極めて不吉とす
無理に持って来れば饅頭まんじゅうが mound に似ている、これはおかしい。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
危険は刻々にせまってくる。かれらはなにを見てもさわいだ。馬が荷車をひいて走ったといっては喝采し、おばあさんが転んだといっては喝采し、巡査が饅頭まんじゅうを食っているのを見ては喝采した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
必然きっと餓鬼がきたのだ何か食うとぐ治ると云って、もっている饅頭まんじゅうれた、僧はよろこんで一ツくったが、奈何いかにも不思議、気分が平常に復してサッサッと歩いて無事に登山が出来たと話した事があった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
世のことわざう「雪隠せっちん饅頭まんじゅうを食う」料簡りょうけん、汚い、けちなことである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眼をお饅頭まんじゅうのように焼かれた友だちの列が
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
「おい饅頭まんじゅう、饅頭!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
良人おっと武大ぶだは、今日も、饅頭まんじゅう売りに出してやったし、帰りもおそいように、わざと二つ三つの用事まで背負わせてやってある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この間もあたいが、何の気もなく部屋へ下りて見ると、マドロス君とお嬢さんとが旨そうにお饅頭まんじゅうを食べていました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何しろしめて三十二銭のうち、饅頭まんじゅうを三皿食って、茶代を五銭やったんだから、残るところはたくさんじゃない。あっても無くっても同じくらいなものだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諸君よ、もし諸君が菓子饅頭まんじゅうを買うの余裕あるならば、この国家的大事業なる南極探検に応分の寄付なし給い。
力まかせに投げつけられた饅頭まんじゅうみたいに、彼女の死体は大地にメリ込んで、グシャッと押しつぶされていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十夜の晩に、重箱ひろて(拾うて)、あけて見れば、ほこほこ饅頭まんじゅう、にぎって見れば、十兵衛さんのきんだま
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
最初に啖呵たんかを切り出したのは眉の濃い、眼玉のどんよりした、獅子っ鼻の大男だった。彼は子供のころ、饅頭まんじゅうの売子をしていたため、「饅頭虎」と綽名あだなされていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
小野田は顔をしかめながら、仕事道具の饅頭まんじゅうを枕に寝そべって、気の長そうな応答うけごたえをしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)