阿呆あほ)” の例文
「あなたって子は、ずいぶん呑気のんきな、阿呆あほったらしい子でしたがねえ、ええ、かなり大きくなったって、何だかぼんやりしてたわ。」
おなごほど詰らんもんおへんな、ちょっとええ目させてもろたとおもたら十九年の辛棒や。阿呆あほらし! なんぼぜぜくれはってももう御免どす」
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「何んやこんなもん、こんなとこへ持つて來るんやない。彼方あつちへ置いといで、阿呆あほんだら。」とめづらしくお駒を叱つて、眼にかどてた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私にお世辞使うためにちゃんと二人で相談しといていうてるのんか分れしませんし、相手になるだけ阿呆あほくさい思て黙ってますと
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
京の山水、江戸の山水の比較とも変りません。「阿呆あほ言いなはれ」というは京の俳調であって、「何だ此畜生こんちくしょう」というは江戸の俳調です。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
誰れがあんな阿呆あほらしいものを汽車賃まで使って描きに行ったのか、その心根がわからないではないかという事になったりする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
この細君が後年息を引き取る時、亭主の坂田に「あんたも将棋指しなら、あんまり阿呆あほな将棋さしなはんなや」と言い残した。
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
乳母 はて、おまへ阿呆あほらしいおひとぢゃ、あのやうなをとこえらばッしゃるとはいのぢゃ。ロミオ! ありゃ不可いけんわいの。
先刻の私の間抜けとも阿呆あほらしいともなんとも言いようのない狂態に対する羞恥しゅうちと悔恨の念で消えもいりたい思いをした。
断崖の錯覚 (新字新仮名) / 太宰治黒木舜平(著)
「そんなんなら、何も今更そんなこと言うて来よるこたあらへん。黙つて勝手に行きよつたらいゝがな。阿呆あほかいな!」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「勘太郎が鬼退治をするとよ、ねずみねこりに行くよりひどいや。阿呆あほもあのくらいになると面白おもしろいな。」と言った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
上官にそういう特権があるものか! 彼は真面目に、ペコペコ頭を下げ、靴を磨くことが、阿呆あほらしくなった。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
はたしてどれだけの誠意を披瀝ひれきして聴かしてくれるものか、それと知りつつ、わざわざ笑われるために行くのも阿呆あほらしいようで控えていたが、それでも
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
むちゃくちゃにのぼせ上がるがいい、有頂天になるがいい。哲学者どもの言うことは阿呆あほの至りだ。彼らの哲学なんかはそののどの中につき戻すがいいのだ。
阿呆あほらし。あんたはあてと三田公と何ぞあるとおもふてゐやはるのか。置いて貰ひまつさ。はゞかりながら、そんなけちな三田公でも無し、あてでも無いわ。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
あるどころじゃないんですよ、阿呆あほらしい。あの羽振といったらトテモ非道ひどいカフェー泣かせなんですよ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
阿呆あほらしくて見ていられねえや、おい藤作が上杉家の附け人になって出てくるんだよ、そいつがお前、清水一角と名前まで変っていやがるんだからおかしくって」
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それを、一躍、徳大寺や花山院の諸卿をとび超えて、右大将に任ずるとは、なんと、阿呆あほらしい——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ピストルで決闘すること三度さんど、女を棄てること十二人、そして九人の女に棄てられたんですぞ! さよう! ひと頃はこれでも、阿呆あほな真似をしたり、べたべた言い寄ったり
骨と皮ばかりの青黒くからびた身體を、羊羹やうかん色になつた破れ御衣ごろもに包んで、髯だらけの顏、蟲喰むしくひ頭、陽にけて思ひおくところなく眞つ黒になつた顏を少し阿呆あほたらしく擧げて
そして、「お母さんの阿呆あほ。」というと母の手を掴んでもう一度咬もうとした。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
小さいくちをとがらせ、「うち、つまらんわア、もう男のひとと、遊んではいけない言うて、監督かんとくさんから説教されたわ。おんなじ船に乗ってて、口いてもいかん、なんて、阿呆あほらしいわ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それを夫婦生活の常道だと思って安心しているだけのことさ。夫婦の間では猥セツでないと思っているだけのことですよ。誰がそれを許したのですか。神様ですか。法律ですか。阿呆あほらしい。
余はベンメイす (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大人おとながこういうことをするのはもう阿呆あほらしくなって、自然に子どもの真似をするのは放任したという場合もあったと思うが、別に最初から小児を適任とし、彼らに頼んでさせたという行事も
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だが、はたの人にやきもきされて、それで何とかなるなど、田舎娘いなかむすめだとはいえ、新しい時代を生きようとしている修造たちの息吹いぶきにふれてきた茂緒にとっては、阿呆あほらしくて問題にならなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
しかし思いのほかに目鼻立めはなだちの整った、そして怜悧りこうだか気象が好いか何かは分らないが、ただ阿呆あほげてはいない、こすいか善良かどうかは分らないが、ただ無茶ではない、ということだけは読取よみとれた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ダネックも、さいしょは彼の競争者として警戒を怠らなかったのが、もう聴くも阿呆あほらしいというような素振りになった。もちろん、そこまでのケルミッシュはいかにもそうであったろうが……。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
地下茎ちかけい塊根かいこんのできる何首烏かしゅうすなわちツルドクダミも、一時はそれが性欲にくとて、やはり中国の説がもとで大騒ぎをしてみたが、結局はなんのこうも見つからず、阿呆あほらしいですんでしまった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
阿呆あほなこと、いうな。……さあ、寝ろう」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
阿呆あほらしい。」
阿呆あほらしい」
可哀かわいそうで可哀そうでいても立ってもいられへんようになって、……そらお梅どん、ハタから見たら阿呆あほらしやろけど、そんなもんやし。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
マーキュ いや、こんな阿呆あほらしい拔駈ぬけがけ競爭きゃうさう最早もう中止やめぢゃ。何故なぜへ、足下おぬし最初はじめからぬけてゐるわ。なんと、頭拔づぬけた洒落しゃれであらうが。
阿呆あほらしい、そんな勿體もつたいないこと考へてるよつて、天滿宮さんの罰が當るんや。道眞みちざね公の臣やいうて、道臣ちふ名をつけたかてあかんなア。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今、私はこの年輩となって、なお阿呆あほらしくも、この囃子連中は芝居のチョボの如く、私の頭の一隅いちぐうに控えている。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
『ひとりで死ぬなんて阿呆あほらしい。あんな綺麗な男となら、わたしはいつでも一緒に死んであげるのにさ』
貨幣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これは親ごころの阿呆あほらしさに解説を加えたものであるが、まだ三十をすぎて間のない私は、身体も健康けんこうだったし、前途は洋々ようようたる希望と野心にふくれあがっていた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
阿呆あほの細工に」考えだした美人投票が餌になったのだから、いってみれば、おれは呆れ果てたお人善し、上海まで行き、支那人仲間にもいくらか顔を知られたというおれが
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
骨と皮ばかりの青黒くからびた身体を、羊羹ようかん色になった破れ御衣ごろもに包んで、髯だらけの顔、虫喰むしくい頭、陽にけて思いおくところなく真っ黒になった顔を少し阿呆あほたらしく挙げて
……事によるとこの事件の真相は、思いもかけぬ阿呆あほらしい喜劇かも知れないぞ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほんとに『阿呆あほらしい』ってのは、こう云う事を云うじゃありませんか。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
阿呆あほらしい。十一時だつせ。お日樣ひいさんが笑ふてゐやはりまんがな。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
あんなものに心の動かぬ我々が罰が当っているのだとは阿呆あほらしい。
「どんな顔して、もどってくるかしらん。阿呆あほくらいが」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「この阿呆あほっ。餓鬼のくせに、何して居さらすっ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿呆あほやな。」と直ぐ母親らしい叱る声がした。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
のんびりした阿呆あほらしい風景でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
阿呆あほらしい。———この手紙のことやったら、中姉なかあんちゃんに云付いつけてやる云うて、こないだからおどかされててんわ」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よくもまあ僕の前で、そんな阿呆あほくさい事がのめのめと言えたものだ。いまに、死ぬのは、お前のほうだろう。女は、へん、何のかのと言ったって、結局は、金さ。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「何んや阿呆あほらしい、蝋燭や。」とお駒は吐き出すやうに言つて、紙のまゝ其處にはふり出した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)