銀蛇ぎんだ)” の例文
られたと見えて苦しそう、京橋づつみをタタタタと逃げまろんできた。と、その影を追い慕って、波を泳いでくるような銀蛇ぎんだが見えた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほのめく短檠たんけいの下に明皎々めいこうこう銀蛇ぎんだの光を放って、見るから人の生き血に飢えているもののごとき形相でありました。
あらい蝙蝠傘こうもりがさの骨を張り拡げたような吊子つりこに、ピアノの鋼線に似た繊条が、細い銀蛇ぎんだのくねりのように、厳めしい硝子棒と二本の銅柱に押しあげられて居る。
鼻に基く殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
止むを得ず大次郎も、腰の女髪兼安に、暮れ近い薄日を映えさせて、時ならぬ剣林、怒罵どば、踏み切る跫音、気合いの声、相打つ銀蛇ぎんだ、呼吸と、燃える眼と——。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
元日が最もはげしく、暮れたばかりの夜空に、さながら幾千百の銀蛇ぎんだが尾をひくように絢爛と流星りゅうせいが乱れ散り、約四半時はんどきの間、光芒こうぼうあいえいじてすさまじいほどの光景だった。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
歯軋はぎしりをかんだが、力の相違はぜひもなく、りゅうと、しごきなおしてくる孫兵衛の銀蛇ぎんだに追われて、タタタタタ……と十歩、二十歩。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裂帛れっぱくの叱声が夜の道に散ったと同時で、ぎらりと銀蛇ぎんだが閃いたかと思われましたが、まことに胸のすく殺陣でした。
しゅッと一せん、細身の銀蛇ぎんだが月光のもとに閃めき返るや一緒で、すでにもう怪しの男の頤先あごさきに、ぐいと短くえぐった刀疵が、たらたら生血なまちを噴きつつきざまれていたので
戒刀かいとうさやをはらって、銀蛇ぎんだ頭上にりかぶってとびおりる。発矢はっし、昌仙が、一太刀うけているすきに、呂宋兵衛るそんべえとその影武者、蚕婆かいこばばあ早足はやあし燕作えんさく、四人四ほうへバラバラと逃げわかれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光芒こうぼう寒き銀蛇ぎんだ一閃いっせんさせたものでしたから、並みいる花魁群のいっせいにぎょッとしながら青ざめたのはいうまでもないことでしたが、しかし、その驚愕きょうがくはただの秒時——。
とつとして、風を切っておどった銀蛇ぎんだは、忍剣の真眉間まみけんへとんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万条の銀蛇ぎんだ、躍るが如し
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)