うずく)” の例文
白帆は早やなぎさ彼方かなたに、上からはたいらであったが、胸より高くうずくまる、海の中なるいわかげを、明石の浦の朝霧に島がくれく風情にして。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千浪と重蔵は、ややしばらく路傍にうずくまったまま、殿の行列を見送っていたが、やがて、駕わきを離れた一名の家来が走り戻って来て
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ブルに追いすくめられて、生きた心地もなく胸壁の隅にうずくまって居た娘は、思わず若い教授に飛び付いて、その首っ玉にかじり付きました。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
藤十郎には、余り近寄らないで、其処に置いてある絹行燈の蔭に、うずくまるように坐った。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
斉明天皇の七年八月に、筑前朝倉山のがけの上にうずくまって、大きな笠を着てあごを手で支えて、天子の御葬儀を俯瞰ふかんしていたという鬼などは、この系統の鬼の中の最も古い一つである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つい鼻の先に真黒な奴がうずくまってでもいるような気がして、二人は思わず立止った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生垣の下にうずくまるもの、塀の袖に隠れるもの、軒下にへばりつくもの、按摩あんま夜鷹蕎麦よたかそば、流しの三味線などは、一体幾度往復したことでしょう。
時に一体の大入道、つら法衣ころも真黒まっくろなるが、もの陰よりいらかを渡りこずえを伝うがごとくにして、舞台の片隅を伝いき、花道なる切穴の口にうずくまる。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その墨のような廊の杉戸口にうずくまっている髪の白い人影を見て、光春はさらにこの時ならぬ迎えの容易ならぬことを察した。迎えの者は光秀の側近くいる常の小侍でもなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼠色の石持こくもち、黒いはかま穿いた宮奴みやっこが、百日紅さるすべりの下に影のごとくうずくまって、びしゃッびしゃッと、手桶ておけを片手に、ほうきで水を打つのが見える、と……そこへ——
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掏摸は陳じ得ず、低頭して罪を謝し、抜取りたる懐中物を恐る恐る捧げてうずくまりつ
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こぶしをあげて一にん天窓あたまをうたんとせしに、一幅ひとはばの青き光さっと窓を射て、水晶の念珠瞳をかすめ、ハッシと胸をうちたるに、ひるみてうずくまる時、若僧じゃくそう円柱をいざり出でつつ、つい居て
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こぶしをあげて一にん天窓あたまをうたむとせしに、一幅ひとはばの青き光さつと窓を射て、水晶の念珠ねんじゆひとみをかすめ、ハツシと胸をうちたるに、ひるみてうずくまる時、若僧じやくそう円柱えんちゆうをいざりでつつ、ついゐて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せなを貸せ、宗山。」と言うとともに、恩地喜多八は疲れたさまして、先刻さっきからその裾に、大きく何やらうずくまった、形のない、ものの影を、腰掛くるよう、取って引敷ひっしくがごとくにした。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのくつは霜のいと夜深きに、空谷を鳴らして遠く跫音きょうおんを送りつつ、行く行く一番町の曲がり角のややこなたまで進みけるとき、右側のとある冠木かぶき門の下にうずくまれる物体ありて、わが跫音あしおとうごめけるを
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)