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虚
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うつろ
ふりがな文庫
“
虚
(
うつろ
)” の例文
撫でるとまだ躰温が高く感じられるが、みひらいたままの眼や、なかばあいている口は、もう
虚
(
うつろ
)
な死をあからさまに示していた。
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その瞬間、彼らの前面は、心に何のまとまりもない
虚
(
うつろ
)
になっていた。そして不気味な絶叫の聞えた土間の入口にばかり気を
奪
(
と
)
られていた。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は、佐治の顔を
視守
(
みまも
)
りつづけながら、
虚
(
うつろ
)
になつてゐる頭から一言一言絞り出すやうに、やつと、それだけ云ひ終つたのだ。
イボタの虫
(新字旧仮名)
/
中戸川吉二
(著)
踊り狂う数十百の骸骨は、その
虚
(
うつろ
)
の眼を見開き、耳まで開いた口を鳴らして、青白い死の笑いを、——妖悪極まる死の笑いを——笑いかけます。
死の舞踏
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
それを眺めていると、心が
虚
(
うつろ
)
になって、肉体が幻の彩りのままに染め上げられて仕舞いそうな危険をほとほと感ずる。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
▼ もっと見る
一つの箱の
蓋
(
ふた
)
が開いている、箱の底に深々と「
泣尼
(
なきあま
)
」の面が、上向きに一面置かれてあったが、活きているような上作で、
虚
(
うつろ
)
の眼が天井を見上げている。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
まぶしい程の朝の光が居間に拡がって来たが、わしの心には何にか大きな
虚
(
うつろ
)
な空洞があいて、飲んでいる昆布茶がその空洞へ流れ落ちて行くような感じであった。
面
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
途中で一ぺん握り飯をかじって谷川の水を
掬
(
すく
)
って飲んだ。富内、大滝、千葉、早坂、それに若い高倉が混っていた。彼らは一切を隊長にまかせて自分を
虚
(
うつろ
)
にしていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
どんなふうな計らいをすれば、世間体のよく、また自分の恋の遂げられることにもなるであろうと、そればかりを思って
虚
(
うつろ
)
になった心で、物思わしそうに薫は家に寝ていた。
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
取ってつけたような笑いだけが
虚
(
うつろ
)
に響いて、もちろん誰も酌がれた
洋杯
(
コップ
)
に手を出すものもない。伯爵ひとりで主人席に突っ立って、洋杯を挙げているばかりであった。が、その瞬間
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
雪の深い、
虚
(
うつろ
)
な
渓底
(
たにぞこ
)
へ、吊されて下りたように
悪寒
(
おかん
)
が身を襲って来た。頭の中で鉛を煮るように、熱く、重く、苦しくなった。手足の
脉々
(
みゃくみゃく
)
は、飛び上るようにずきりずきり打ち初めた。
悪魔
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
聡明
(
そうめい
)
な
眉
(
まゆ
)
をあげて
虚
(
うつろ
)
な御堂からいまにも立ち現れ給うごとく感じたのであった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
婦人科の前の廊下を看護婦が一人、眼を
虚
(
うつろ
)
にして、くるくる歩き回っている。背中を強く叩いて「おい、しっかりしろ」というけれども気がつかぬらしく、そのまま同じ運動を続けている。
長崎の鐘
(新字新仮名)
/
永井隆
(著)
見かへる鼻先きに
眞蒼
(
まつさを
)
になつて痙攣的に震ふ兄の顏があつた。
瞬
(
またゝ
)
きもせずに大きく彼れを見詰めてる兄の眼は、全く空虚な感じを彼れに與へた。彼れにはそれが
虚
(
うつろ
)
な二つの孔のやうに見えた。
実験室
(旧字旧仮名)
/
有島武郎
(著)
向い合う魚頭や魚鱗を彫りますが、余り手の込み入ったものはかえって面白くありません、白木でも朱塗でも作ります。大型のを作る様などは見ものであります。胴の
虚
(
うつろ
)
を巧みに彫りぬきます。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
逭
(
の
)
がれよ、こゝに
萬物
(
ばんぶつ
)
は、
凡
(
す
)
べて
虚
(
うつろ
)
ぞ、日は
燬
(
や
)
かむ。
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
彼の
虚
(
うつろ
)
な目は見るともなしにそれに見入っていた。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
虚
(
うつろ
)
の
靈
(
たま
)
は涯知らぬ淵に浮びて
有明集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
母親の声は、
虚
(
うつろ
)
にひびいた。
或る母の話
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
虚
(
うつろ
)
な窓に吸はれてゆく
太陽の子
(旧字旧仮名)
/
福士幸次郎
(著)
奈落
(
ならく
)
へか
虚
(
うつろ
)
する。
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
と
虚
(
うつろ
)
のような声で云い、
燈火
(
ともしび
)
のない部屋を見廻した。と、闇の中に、仄白く、方形の物が懸かっていた。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
だのに、その恐ろしい人物もいまは南朝方にいなくなったと知ると、彼は、その強敵を敵として、無残にまでつよく自己を生かして来た大きな張りを失っていた。淋しさに似る
虚
(
うつろ
)
の下から
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
逭
(
の
)
がれよ、こゝに万物は、
凡
(
す
)
べて
虚
(
うつろ
)
ぞ、日は
燬
(
や
)
かむ。
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
白い
虚
(
うつろ
)
な眼を閉ぢる
太陽の子
(旧字旧仮名)
/
福士幸次郎
(著)
苦虫をかみつぶしたように、
眩
(
まばゆ
)
い初夏の
庭面
(
にわも
)
へ、
虚
(
うつろ
)
に眼を向けていた。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
こゝ
虚
(
うつろ
)
なる
無聲境
(
むせいきやう
)
、浮べる物や、泳ぐもの
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
こゝ
虚
(
うつろ
)
なる
無声境
(
むせいきよう
)
、浮べる物や、泳ぐもの
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
それは
虚
(
うつろ
)
ともいえる眼だった。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
げに
虚
(
うつろ
)
なる
朽木
(
きうぼく
)
の
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
虚
常用漢字
中学
部首:⾌
11画
“虚”を含む語句
空虚
虚言
虚妄
虚空
虚構
虚偽
虚無
虚弱
虚飾
虚空蔵
虚心
太虚
虚誕
虚無的
虚無僧
虚子
虚僞
虚栄
虚舟
大虚
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