藥鑵やくわん)” の例文
新字:薬鑵
かれ悲慘みじめせま小屋こやには藥鑵やくわん茶碗ちやわんとそれから火事くわじ夕方ゆふがたとなり主人しゆじんがよこしたあたらしい手桶てをけとのみで、よるよこたへるのに一まい蒲團ふとんもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宗助そうすけつぎにある亞鉛とたんおとしのいた四角しかく火鉢ひばちや、やすつぽいいろをした眞鍮しんちゆう藥鑵やくわんや、ふるびたながしのそばかれたあたらしぎる手桶てをけながめて、かどた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
藥鑵やくわんを持出したり、洗濯物の包をさらつたり、子供の玩具おもちやを盜んだり、——それも盜みつきりにするわけではなく、少し離れたところへ捨てて行くから變ぢやありませんか
「ぞつとするやうな醜い年寄としよりでございます。まるで藥鑵やくわんのやうに眞黒で。」
わら粟幹あはがら近所きんじよからあたへられた。かれ住居すまゐうしなつただい日目かめはじめて近隣きんりん交誼かうぎつた。みなみ女房にようばうふる藥鑵やくわん茶碗ちやわんとをつててくれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「いきなりお内儀を殺しては、直ぐ知れる。そこで、町内の物持を五六軒も荒し廻り、泥棒の仕業と見せようとした。藥鑵やくわんや玩具を盜んで、すぐ捨ててしまつたのはその爲だ」
勘次かんじ平生へいぜいなんともおもはなかつた器物きぶつにしみ/″\と便利べんりかんじた。かれ藥鑵やくわんのまだあつ茶碗ちやわんいで彼等かれらちつけるたゞまいむしろはしいこうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「何しろ毒に中てられたのが五人もある騷ぎで、其時は誰も側に居てくれません、——私は這ふやうにしてお勝手へ參り、藥鑵やくわんと湯呑を持つて來て、御新造さんに呑ませましたが——」
「その藥鑵やくわんは何處へやつた、奧にも此處にも見えないやうだが——」