)” の例文
お浜の住み家であるトタンぶきのあばら屋から、辺りをうかがうようにして、一人の男が戸外のやみのなかに出てきたのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
いの字ヶ原の草靄くさもやは、かかるあいだにッすらとれかけていた。遠くかすんでいる山の前を、一羽の鳥影が悠々と横ぎってゆく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
念のために一つ一つ紙へ計算をしるして御覧なさい。エート、先ずサンドウィッチの原料として、食パン一きんすく切って二十きれにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はるかの果てに地方じがたの山がっすら見える。小島の蔭に鳥貝を取る船がむれ帆をつらねている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
街道かいどう入口いりぐちあたりから前方ぜんぽうながめても、かすみが一たいにかかっていて、なにりませぬが、しばらくぎるとるかきかのように、っすりとやまかげらしいものがあらわれ
其の薄暗い中に、べにや黄の夏草の花がポツ/\見える。地べたは青く黒ずむだこけにぬら/\してゐた………眼の前の柱を見ると、蛞蝓なめくぢツたあとが銀の線のやうにツすりと光ツてゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
おやと気をつけると、暗いところがほんのりあかるくなって、自分は沈みもしなければ浮上うきあがりもしないで、水の中にふっと止まっている。向うを見ると、っすらと人陰ひとかげが見えて、糸をる音がする。
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そらするゝほしくづの
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やみれた蛾次郎のひとみには、ようようそこの屋根うらが、怪獣かいじゅうのような黒木くろきはりけまわされてあるのがっすらわかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其處らは人をすやうな温氣うんきを籠めたガスに、ツすりぼかされてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それでもっすりとしたあまかんじたようにおぼえてります。
そして、蹴上けあげの辺りに、茫乎ぼうとしてたたずんでいる間に、京の町々の屋根、加茂の水は、霧の底からっすらとけかけて来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正成はッすらと顔をゆがめた。その眸をめぐらして、須磨方面へ、心を移しながら
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ッすらと、あおもやのように見えた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)