薄汚うすぎたな)” の例文
人目を避けて、うずくまつて、しらみひねるか、かさくか、弁当を使ふとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食こじきのやうに薄汚うすぎたない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ある冬の日の暮、保吉やすきち薄汚うすぎたないレストランの二階に脂臭あぶらくさい焼パンをかじっていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂ひびの入った白壁しらかべだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、あなたの顔ではありますが、全然、さっきの魅力を失った、ただの田舎女学生の、薄汚うすぎたなく取り澄ました、肖像しょうぞうが発見されました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
独語ひとりごつところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚うすぎたな衣服なり髪垢ふけだらけの頭したるが、裏口からのぞきこみながら、おつつぶれた声でぶ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白い清潔な上っ張を着ているけれども、何だか薄汚うすぎたない感じ。こんな男に神聖なベッドに乗って貰いたくない。夫が按摩嫌いなのももっともだと思う。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その前に、十二、三の薄汚うすぎたない女の子がちょっと前に泣いたらしいそのままのしかめた顔をして立っていた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
秋風が吹いて、収穫とりいれが済むころには、よく夫婦の祭文語さいもんかたりが入り込んで来た。薄汚うすぎたない祭文語りは炉端ろばたへ呼び入れられて、鈴木主水もんど刈萱かるかや道心のようなものを語った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
押入にブラ下がつてゐるのは、四十七、八の薄汚うすぎたない男、月代さかやきげちよろで、高い鼻筋が曲つて、クワツと開いた金壺かなつぼ眼、いかにも繪に描いた貧乏神のやうな感じです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
東より順に大江橋おおえばし渡辺橋わたなべばし田簑橋たみのばし、そして船玉江橋まで来ると、橋の感じがにわかに見すぼらしい。橋のたもとに、ずり落ちたような感じに薄汚うすぎたない大衆喫茶店きっさてん飯屋めしやがある。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
薄汚うすぎたない煤煙色をした満天の雲はます/\南に流れる、水の様に、霧の様に、煙の様に。空は皆動いて居る。ひろい空のの一寸四方として動いて居ないのはない。皆恐ろしい勢を以て動いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
秩序ある生活と、アルコールやニコチンを抜いた清潔なからだを純白のシーツに横たえる事とを、いつも念願にしていながら、私は薄汚うすぎたない泥酔者として場末の露地をうろつきまわっていたのである。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
下総武蔵しもふさむさし国境くにざかいだという、両国橋りょうごくばしのまんなかで、ぼんやり橋桁はしげたにもたれたまま、薄汚うすぎたなばあさんが一ぴきもんっている、はなかめくびうごきを見詰みつめていた千きちは、とおりがかりの細川ほそかわ厩中間うまやちゅうげんたけろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕はいつかイタリアのファッショは社会主義にヒマシユを飲ませ、腹下しを起こさせるという話を聞き、たちまち薄汚うすぎたないベンチの上に立った僕自身の姿を思い出したりした。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな薄汚うすぎたない、車夫風情しやふふぜいをつかまへて、かつたいばうともおびなさらず
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「や、くらはすのはめろ、つゑよごれる、野郎やらうふんどし薄汚うすぎたない。」
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)