かずら)” の例文
野良犬ならば、すぐ跳び越えられるように、崩れている所もある。かずらからんでいるむくの樹の上で、キチキチと、栗鼠りすが啼いた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと見れば片側ののきにそひて、つたかずらからませたるたなありて、そのもとなる円卓まるづくえを囲みたるひとむれの客あり。こはこの「ホテル」に宿りたる人々なるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ところがその百姓が、車のながえと横木をかずらゆわいた結び目を誰がどうしてもく事が出来ない」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抱合って、目を見交わして、姉妹きょうだい美人たおやめは、身をさかさまに崖に投じた。あわれ、蔦にかずらとどまった、道子と菅子が色ある残懐なごりは、滅びたる世の海の底に、珊瑚さんごの砕けしに異ならず。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眞拆まさきかずらかずらとして、天のカグ山の小竹ささの葉をたばねて手に持ち、天照らす大神のお隱れになつた岩戸の前におけせて踏み鳴らし神懸かみがかりして裳の紐をほとに垂らしましたので、天の世界が鳴りひびいて
たてに竹を打ち附けて、横に二段ばかり細く削った木を渡して、それをかずらで巻いた肱掛窓ひじかけまどがある。その窓の障子が一尺ばかり明いていて、卵の殻を伏せた万年青おもとの鉢が見えている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)