苔桃こけもも)” の例文
時としては青黒い苔桃こけもものような甘っぽい空疎な味であるが、しかし少なくとも大地のにおいをもっている、まだ若々しい芸術である。
浦島躑躅うらしまつつじ苔桃こけもも黄花石楠きばなしゃくなげ姫菅ひめすげなど、岩間に痩せた茎を托しているが、花は流石さすがに美しい。偃松も山の肌へ腹匐いになって、身を潜めている。
つばめ温泉に行った時、ルビーのような、赤い実のついている苔桃こけももを見つけて、幽邃ゆうすいのかぎりに感じたことがあります。
果物の幻想 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この山にえている、葡萄ぶどう苔桃こけもも若老わかおい、しゃくなげの、それにくりだのかきだの、仙人草せんにんそうだの、いろんなものをすこしの焼米やきごめぜたのでございます。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の歩いているその辺はどうやら富士も五合目らしく、その証拠には木という木がほとんど地面へ獅噛しがみ付いている。そうしてその木の種類といえば石楠花しゃくなげ苔桃こけももの類である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ったりした、およそ間の岳から北岳の峰までの、石の草原には、深山薄雪草みやまうすゆきそう深山金梅みやまきんばい、トウヤク竜胆りんどう岩梅いわうめ姫鍬形ひめくわがた苔桃こけももなどが多いが、その中で、誰の目にもつくのは、長之助草である
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一方にはまたあの緑の毛氈もうせんを敷いたような岩高蘭がんこうらん苔桃こけももの軟いしとねに、慈母の優しいふところを思わせる親しさがある。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
赤銅しゃくどう色のぶな、金褐色のくり珊瑚さんご色の房をつけた清涼茶、小さな火の舌を出してる炎のような桜、だいだい色や柚子ゆず色や栗色や焦げ燧艾ほくち色など、さまざまな色の葉をつけてる苔桃こけもも類のくさむら
「いつぞや、お酒蔵さけぐらの掃除の時、蔵の底からたいそう古い、苔桃こけももの銘酒を見つけたと侍衆さむらいしゅうが珍重がっておりました。なんでしたら、その苔桃こけももの古酒を少々持ってまいりましょうか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小屋から二十間ばかり北に離れて、綺麗な砂地に岩高蘭がんこうらん苔桃こけももなどの生えている草原がある。
笹が少なくなって石楠しゃくなげ御前橘ごぜんたちばな岩鏡いわかがみ苔桃こけももなどが下草に交って現れる。左に近く笈吊おいつる岩の絶壁を仰ぐようになると直ぐ峠の頂上である。十日程前には紅葉が盛りであったという。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
暫く四方の眺望をほしいままにし、そして岩を下りると、しとねのようにやわらかいふっくりした青い岩高蘭がんこうらん苔桃こけももの中に身を埋めて、仰向けに寝ころんだまま、経文を誦する人声が耳に入るまで
金峰山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
苔桃こけももの実に喉を潤し、それでもまだ気懸りなので原の中央まで駈足で行き駈足で戻り往復三十分を費して荷物を置いた場所迄来ると、直にそれを背負って和田に通ずる道をかけ下りた。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
附近には岩高蘭がんこうらん苔桃こけもも、蔓苔桃が一面に緑の毛氈——そのすっきりした柔い感じは寧ろ天鵞絨ビロードを想わせる——を敷き詰めて、秋十月頃には紅色紫黒色の小果が玉累々たる有様を呈する。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
私がここに遊んだのは、中秋と晩春の頃であったから、牛馬の姿は認めなかったが、茶臼山の頂上に生えている苔桃こけももを踏み蹂った狼藉たる蹄の跡に、初めは鹿か猪の所為せいではないかと疑った。
高原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
瞰下みおろす左の谷は黒木の茂ったおくぶかい子酉川の上流で、脚の下は百尺の懸崖である。岩間には低い灌木が生えていて、日蔭かずら、苔桃こけもも小岩鏡こいわかがみなどが目に入る。此岩峰は地図に記載してない。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
高根薔薇たかねばらの艶麗、高根撫子なでしこの可憐、黄花石楠きばなしゃくなげの清楚に加えて、伊吹麝香草いぶきじゃこうそう、車百合、千島桔梗ちしまぎきょうなどが現われ、少し岩の露出した所には、姿のいい真柏や唐松などが生えている。苔桃こけもも岩高蘭がんこうらんも多い。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
頂上は小沢岳より狭くかつ高さも十六、七米低いが、二等三角点を取り巻いて岩塊の狼藉たる上に、偃松や石楠が枝を延し、四、五寸の小笹に交って苔桃こけもも御前橘ごぜんたちばな、イワハゼ、ウイキョウ、深山鍬形みやまくわがた
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)