端然たんぜん)” の例文
その部屋の十吉は、いつも端然たんぜんとデスクの向ふに坐つて、或ひは読書したり、或ひは何か考へごとに耽つてゐる彼を見出すのだつた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
こう言って彼は風呂かまの前に端然たんぜんとして控えていたが、伝二郎にも、それから丁稚にさえ自身てずから湯を汲んで薄茶を奨めてくれた。
次郎が、茶の間に這入って驚いたことは、いつの間に来たのか、正木のお祖父さんが、白いひげをしごきながら、端然たんぜんと坐っていることであった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
龍太郎は、かたわらに両手をついたが、伊那丸ははっきりこたえて、端然たんぜんと、家康の顔をじいとみつめた。——家康も、しかと、こっちをにらむ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう云う相手の気勢けはいを見ると、瑠璃子は何気ないように、元の椅子に帰りながら、端然たんぜんたる様子に帰ってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
泣き伏す代りに端然たんぜんと坐った。あたかもその坐っている席の下からわが足の腐れるのを待つかのごとくに。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大尉を驚かせたのは、米艦隊の最上さいじょうの空に、まもがみのように端然たんぜん游泳ゆうえいをつづけていたメーコン号が、一団の火焔となって、焼け墜ちてゆくのを発見したことだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前なる四輪の豪奢ごうしゃな馬車には、霊公とならんで嬋妍せんけんたる南子夫人の姿が牡丹ぼたんの花のようにかがやく。うしろの見すぼらしい二輪の牛車には、さびしげな孔子の顔が端然たんぜんと正面を向いている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そゞろにゆかしく、なつかしく、まなこげて、目前もくぜん端然たんぜんたる松島大佐まつしまたいさおもてながめると、松島大佐まつしまたいさ意味ゐみありに、わたくし武村兵曹たけむらへいそうかほとをくらべたが、れい虎髯大尉こぜんたいゐ一寸ちよいとかほ見合みあはせて
さうしてその机のうしろ、二枚重ねた座蒲団の上には、何処どこ獅子ししを想はせる、脊の低い半白はんぱくの老人が、或は手紙の筆を走らせたり、或は唐本たうほんの詩集をひるがえしたりしながら、端然たんぜんと独り坐つてゐる。……
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わが幼時の思ひ出の取縋るすべもないほどに端然たんぜんと……。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
すると、ふしぎなことには、先生のいつもの端然たんぜんたる静坐の姿勢がいくらかくずれている。顔をすこしせ、そのまゆの間には深いしわさえ見えるのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
どうしたものか、秀吉の膝にあっては、駄々でおむずかりやの三法師も、人形のように端然たんぜんとしている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御紋ごもん散らしの塗り桶を前に、流し場の金蒔絵の腰かけに、端然たんぜんと控えておいでです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さうしてその机のうしろ、二枚重ねた座蒲団の上には、何処どこ獅子ししを想はせる、せいの低い半白はんぱくの老人が、或は手紙の筆を走らせたり、或は唐本たうほんの詩集をひるがへしたりしながら、端然たんぜんと独り坐つてゐる。……
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その明るさの中央に、ネステレンコが長い上身を小さなデスクの向ふに聳えさせて、端然たんぜんとしてこちらを凝視してゐる。十吉の顔をみて、ちよつと意外らしい表情を見せたが、すぐ顔色を和らげて
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
風采ふうさい端然たんぜん威風ゐふう凛々りん/\までもない、本艦ほんかん艦長かんちやうである。
はッとして、こころをまそうとした。そしてなにげなく見まわすと、まえの人は端然たんぜんとしているが、ふたりの従僧じゅうそうしながら、われをわすれていねむっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍八代様のお湯殿ゆどの。八畳の高麗縁こうらいべりにつづいて、八畳のお板の間、御紋ごもん散らしの塗り桶を前に、お流し場の金蒔絵きんまきえの腰かけに、端然たんぜんとひかえておいでになるのが、後に有徳院殿うとくいんでんと申しあげた吉宗公で。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさ端然たんぜんたる顏色がんしよくかすかうごいて