わて)” の例文
「成程、あの墓石はかいしに耳を当てがふと、何時いつでも茶の湯のたぎる音がしてまんな。わて俳優甲斐やくしやがひ洒落しやれ墓石はかいしが一つ欲しうおまんね。」
悪い男云々うんぬんを聴きとがめて蝶子は、何はともあれ、扇子せんすをパチパチさせてっ立っている柳吉を「この人わての何や」と紹介しょうかいした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
種吉は残念だった。お辰は、それみたことかと種吉をあざけった。「わてらに手伝てつどうてもろたら損や思たはるのや。誰がびた一文でも無心するもんか」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「雲右衛門さん、わてあんたの浪花節を聴く度に、いつも思うてまんのやで。」と、ぐつと飲み干した盃を雲右衛門にさした。
山村やまむらは陰気くさいよつて、何か、ぱつとした東京風の派手な踊が見たい/\言ははりますさかいな。つまりわてらはお客さん次第だんがな。」
わて親爺おやじに無心して払いまっさ」と柳吉もだまっているわけに行かなかったが、種吉は「そんなことしてもろたら困りまんがな」と手をった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わて小山田が討入前といふ大事な晩やのに、ついふらふらと湯女ゆなところた、あの余裕ゆとりのある気持が気に入つてまんね。」
今まで「わて」「わて」と云っていた彼女が、この時打って変った様に「わたし」と上品な云い方を用い出したことは、人々、就中、政江の義妹たちの注目をひいた。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「そない言はんと、まあ考へとみやす。わてにしても、貴方あんたにしても、これまで大石さんには、たんとお金を儲けさせて貰うてまつしやろ、それを今更……」
「鹿児島へ往くんだすか、そやつたら勝手を言うて済みまへんが、わて一人脱けさして貰ひませう。」
「兄さん、いつ頃らはりまんね、わても出るとなると身体からだの都合をしとかんなりまへんさかいな。」
わてもそない思うてんのやが、つい那女あれの事が思はれるもんやよつてな。」
「ほんまに春挙先生にも困りまつせ。酒に酔ははると相変らず無茶苦茶の物をかはるので、わてあとから後からそれを破つて廻りますんや、そないなもんが残つてては先生の名折なをれどすさかいにな。」
わてのも三時半だす。さつきにから止つてたやうに思ひまんがな。」
「先生わてがお頼みしましたのは芽張柳の画どしたな。」