独活うど)” の例文
旧字:獨活
「ぜんまいの甘煮うまにと、芝蝦しばえび南蛮煮なんばんになどはどうです。小丼こどんぶりあじ酢取すどり。若布わかめ独活うどをあしらって、こいつア胡麻酢ごますでねがいましょう」
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お気の毒様なこつたが独活うど大木たいぼくは役にたたない、山椒さんしよは小粒で珍重されると高い事をいふに、この野郎めと脊をひどく打たれて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
菓子は好物のうぐいす餅、さい独活うどにみつばにくわい、ものは京菜の新漬け。生徒は草餅や牡丹餅ぼたもちをよく持って来てくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
書生上りの大原も一家の主人となりてより今はよほどに世帯しょたいじみてお登和嬢の料理談に耳を傾く「そこでこの独活うど酢煮すにはどうしたのです」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この時、もう左門は、その独活うどの皮を剥いたように白い足で、縁板えんを踏み、地へ下り、染八の面前へまで殺到して来ていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或るとき私が『君は、独活うどが好きだろう。独活そのものには、格別の味はないが、主観で味をつけて食べるから』と云うと
井伏鱒二によせて (新字新仮名) / 小山清(著)
晩春の頃で、独活うどと半ぺんの甘煮うまになども、新造しんぞは二人のために見つくろつて、酒を白銚はくてうから少しばかり銚子に移して、銅壺どうこでおかんをしたりした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
豊脆な独活うどわらびの味噌汁に舌鼓を打ちつつ、雪の峠を横断しては温泉から温泉へと辿り歩いた奥上州の暢気だった旅。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼女は「物」からただの女になりふふんと小狡こずるく笑った。それから小海老を手握てづかみで喰べて先が独活うどの芽のように円くしなう指先をナプキンで拭いた。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
独活うどと、ウト蕗と袮するすこぶる香の高い草とを手に持っている。このくらやみで、どうしてこんなものを発見して来たのか、我々には見当もつかぬ。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
パンの皮や、らっきょうや、サラダや、独活うどや、そんなものでも、音を立てて食うことに異常な幸福を感じる。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俗に独活うどの大木などという形ばかりいかめしくて弱いものを、栃木県あたりではイモガラボクトといってあざけっている。即ち芋茎のホコの如しという意味である。
凍りついた中味をあたためれば、肝や独活うどや焼豆腐まで、そっくり揃って、そのまま即席のあんこう鍋。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
消炭と独活うどの葉とをまぜて擂つた嗅煙草をたつぷり一つまみ摘んだが、その手をばいやに気取つて鼻の方へ持つて行つたかと思ふと、その煙草を残らず、すうつと
一、月並風つきなみふうに学ぶ人は多く初めより巧者を求め婉曲えんきょくを主とす。宗匠また此方より導く故についに小細工に落ちて活眼を開く時なし。初心の句は独活うど大木たいぼくの如きをとうとぶ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わが庭広からず然れども屋後おくごなほ数歩の菜圃さいほあまさしむ。款冬ふきせりたでねぎいちご薑荷しょうが独活うど、芋、百合、紫蘇しそ山椒さんしょ枸杞くこたぐい時に従つて皆厨房ちゅうぼうりょうとなすに足る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
修善寺の奥の院の山の独活うど、これは字も似たり、独鈷とっこうどととなえて形も似ている、仙家の美膳びぜん、秋はまた自然薯じねんじょ、いずれも今時の若がえり法などは大俗で及びも着かぬ。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳原堤やなぎわらどてへいつも出るはしり物屋がある、このあいだ通りかかったら独活うどがあった、あれを買って来てつまにしよう、駆けてゆけば庄吉の話を聞くひまくらいはあるだろう
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
春がくると渓流の畔に、山独活うどの芽がふくらむのだが、穴から出た熊はこれが大好物で終日食っている。そして、青い糞をたれる。しかし、糞はあちこちと勝手にやるのではない。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
もみさわらが細い枝を張り合っている、脂くさい空気を突ッついて、ミソサザイがしきりに啼く、岳川から石の谷を登る、水はちっともない、独活うどの花がところどころに白く咲いている
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
来て見れば予期以上にいよいよ幻滅を感じて、案外くみしやすい独活うどの大木だとも思い、あるいはたがゆるんだおけ、穴のいた風船玉のような民族だと愛想を尽かしてしまうかも解らない。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一軒の小さな八百屋やおやがあって、あかる瓦斯ガスの燃えた下に、大根、人参にんじんねぎ小蕪こかぶ慈姑くわい牛蒡ごぼうがしら小松菜こまつな独活うど蓮根れんこん、里芋、林檎りんご、蜜柑の類がうずたかく店に積み上げてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの独活うどの畑から杉林にさしかかるところ、それこそ真の闇で物凄かった。女学校四年生の時、野沢温泉から木島まで吹雪の中をスキイで突破した時のおそろしさを、ふいと思い出した。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
山畑やまばた独活うどの繁りに風立ちて秋来と云はば驚きなむか(消息)
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「何あに、独活うどの大木ってことがある」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人の通らん間に、独活うどが生えた……。
浅間山 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
鰻も捨てられた、独活うども捨てられた——そして「巴里人のアンショア」の名で一つの前菜が新しく生れた。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
対岸の百貫山と名劒めいけん山を連ねた急峻な山稜を絶えず頭上に仰いで、横合から不意に落ち来る幾つかの支谷を越えた。独活うど谷、小屋ノ谷、蔭ノ谷などいうのがそれだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
晩春の独活うど、秋の小鳥、冬の山どり、雉……そんな物を、山の人達は送ってくれた。私の生活に山は欠くべからざるものとなった。シーズンを外ずして、私はよく山へ出かけた。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
「ぼんやりとしてノッソリとして、ヌッと立っている塩梅あんばい独活うどの大木というところだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水瓜すいか冬瓜とうがんせり独活うどの如きは利水性にて小水を促す。妊婦の初期には禁ずべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お前が、男世帯をして、いや、菜が不味まずいとか、女中おんなが焼豆腐ばかり食わせるとか愚痴った、と云って、いか、この間持って行った重詰なんざ、妙が独活うどを切って、奥さんが煮たんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独活うどが多くなって、白い小さい花が、傘のように咲いている、変に人慣れないような、青臭い匂いが、鼻をそそる、谷から谷を綾取るようにして、鶯が鳴き出す、未だ溶けそうもない雪の塊まりが
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
現に伯耆ほうきの中津の奥などでは、ソウジモノといえば山で採る野菜の総称になっていて、その中には独活うど・山の芋・蕨・ゼンマイ・ふき・タラの芽・ムカゴ・スズノコからよもぎ・ハハコまでが含まれていて
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
薄あかきはそろはざれ大き独活うど縄にくくりて二十本はあらむ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひら小鯛こだいの骨抜四尾。独活うど花菜はなな山椒さんしょうの芽、小鳥の叩き肉。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と手がのびてたもとかれると春風今を駘蕩たけなわに、わらび独活うどの香に酔ったほど、馬は、うかうかと歩行あるき出したが、横畷よこなわて少しばかり入ると、真向うに樹立こだち深く、住静すみしずめた見事な門構もんがまえの屋敷が見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独活うど 九五・一〇 一・〇六 〇・一〇 二・四七 〇・七〇 〇・五七
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一本のナイフが肉を切り、枝を切り、独活うどの根を掘り、爪を切る。一着の衣服が寝間着になり、昼着になる。山中で人に逢えば即ち訪問服となる。これ等はみな人類の先祖がやっていたことである。
山を思う (新字新仮名) / 石川欣一(著)
元橋という所で三国街道を離れ、浅貝川を徒渉としょうし、それから清津川に沿うて西に入ること四時間ばかりで、赤湯山の西北に在る赤湯温泉に達する。途中わらび独活うどと筍(根曲り竹)の多いのには一驚した。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
太茎ふとぐき八尺やさか独活うどのひとくくり無雑作にさげて笑ひをぢ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ノッソリとしてズングリとしてまるで独活うどの大木だ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一本のナイフが肉を切り、枝を切り、独活うどの根を掘り、爪を切る。一着の衣服が寝間着になり、昼着になる。山中で人に逢えば即ち訪問服となる。これらはみな人類の先祖がやっていたことである。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
また妊娠の始めには芹、独活うど冬瓜とうがん、西瓜等水気の増すものまたは芋、豆、大根、蕪根の如き瓦斯を醸すものおよび塩漬の肉類、乾物、脂肪多き食物類は消化良しからざるものなれば食用すべからず。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
独活うど酢煮すに 春 第八十 岡目八目おかめはちもく
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)