濡衣ぬれぎぬ)” の例文
取りもしないものを取ったと云って、あたしに泥坊の濡衣ぬれぎぬを着せる。皆さんどうぞ加勢をして下さいと、泣き声で呶鳴るという始末。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
身に覚えはありませんが、わたくしの身に濡衣ぬれぎぬがかかるわけは存じております。……千住三丁目の大桝屋さんはわたしの永のご贔屓ひいき
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自分に着せられた濡衣ぬれぎぬ——いさゝか小便臭い濡衣を、手もなく乾かしてくれさうな氣がして、眞にイソイソと先に立つて案内して行きます。
「やかましいやいッ。てめえがおれたちに金入れを取られたといやあ、おれたちふたりは泥棒どろぼうだ。よくも人に濡衣ぬれぎぬせやがった」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それなれば、それなれば、私は今おめおめと死ぬべき時ではない。どうともして、この窮地を逃れ濡衣ぬれぎぬをほさなければならぬ」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
濡衣ぬれぎぬを着せられちやいやだからなあ。さうかつて、こいつを山羊さんの耳に入れる手はないでせう。女はこれだから困るんだ
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
鳶「え、きますとも、半分取ったろうなんて、飛んでもねえ濡衣ぬれぎぬを着せられたんですもの、すぐに行って来ます、少し提灯ちょうちんをお貸しなすって」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さりとて打ち捨ておかば清吉の乱暴も命令いいつけてさせしかのよう疑がわれて、何も知らぬ身に心地からぬ濡衣ぬれぎぬせられんことの口惜しく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あなたも濡衣ぬれぎぬをおしになれないでしょう。それも無情に私をお追いになった報いとお思いになるほかはないでしょう
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「そうそう、わたしは盗人という濡衣ぬれぎぬがまだ乾いていない身であった、古市ふるいちへ姿を見せれば、直ぐに縄目にかかる身であった、さあ故郷へは帰れない」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、日がつに従うて、見もせず聞きもせぬけれど、浮名うきなが立って濡衣ぬれぎぬ着た、その明さんが何となく、慕わしく、懐かしく、はては恋しく、憧憬あこがれる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生前間男の濡衣ぬれぎぬを着せ、——世間へ見せしめ、二人の死骸、戸板へ打ち付け、水葬礼——ふん、そいつにしたんだからなあ。だって小平がくねえからよ。
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父がこの雑談集を公に致しますのも、恐らく法律談は乾燥であるという濡衣ぬれぎぬしたい微意でありましょう。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
父がこの雑談集を公に致しますのも、恐らく法律談は乾燥であるという濡衣ぬれぎぬしたい微意でありましょう。
法窓夜話:01 序 (新字新仮名) / 穂積重遠(著)
拍子抜してもどれる貫一は、心私こころひそかにその臆測のいりほがなりしを媿ぢざるにもあらざれど、又これが為に、ただちに彼の濡衣ぬれぎぬ剥去はぎさるまでに釈然たる能はずして、好し
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
というようなわけで、あれ以来博士は、あられもない濡衣ぬれぎぬをきせられて、しきりにくすぐったがっている。
蒙りたるも最前さいぜんまですむにごるか分らざりしが今はわかれど濡衣ぬれぎぬほすよしもなき身の因果いんぐわと思ひ廻せば廻すほど又もなみだの種なるを思ひ返へしてゐるをりから後の方より背中せなか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とんでもない濡衣ぬれぎぬを着せられて追い出されちゃったんだよ。僕のかないが非常に可愛がっていたんだがね。イヤ。本人も喜んでいるよ。この間と昨日と二度電話をかけてね。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またある時は名門の出の某男爵が濡衣ぬれぎぬに扮したおり、彼女は八重垣姫やえがきひめを振りあてられて真面目まじめ化粧けわい衣装をして、自ら「はじかき姫」だと言っていたことをも思いだす。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
母をはじめ親戚しんせき朋友のかれこれといいすすむるに。勤は余義なくてありし次第を打ちあけて述べたるに。もとよりあらぬ濡衣ぬれぎぬにもあらざれば。誰もしからんにはとの答えのみなれば。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
厄介やっかいだな。それじゃ濡衣ぬれぎぬを着るんだね。面白おもしろくもない。天道是耶非てんどうぜかひかだ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こりゃあ何かの間違えだ。いくら先様が大分限だいぶげんでもみすみす濡衣ぬれぎぬせられて泣寝入り——じゃあない、突出されだ、その突出されをされるわきゃあない、とこうあっしは思いましたから——。
たまのようだといわれたその肌は、年増盛としまざかりの愈〻いよいよえて、わけてもお旗本の側室そくしつとなった身は、どこか昔と違う、お屋敷風の品さえそなわって、あたか菊之丞きくのじょう濡衣ぬれぎぬを見るような凄艶せいえんさがあふれていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
めにあずかって当然のところ、おろかな言い繕いだの、破れかぶれだのおっしゃって嘲笑ちょうしょうなされ、はては、嫉妬なぞと思いも掛けぬ濡衣ぬれぎぬを着せようとなさるので、ポローニヤスもつい我慢ならず
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「いやはや、宣長翁も飛んだ濡衣ぬれぎぬを着たものさね。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心にもあらぬ恨みは濡衣ぬれぎぬ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
五 不思議の濡衣ぬれぎぬ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
冒頭に置いての責道具ハテわけもない濡衣ぬれぎぬ椀の白魚しらおもむしって食うそれがしかれいたりとも骨湯こつゆは頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が金輪奈落こんりんならくの底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの挨拶あいさつ長坂橋ちょうはんきょう張飛ちょうひ睨んだばかりの勢いに小露は顫え上りそれから明けても三国割拠お互いに気まずく笑い声は
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
捕えた者は彼こそ確かに我来也であると主張するのであるが、捕えられた本人はおぼえもない濡衣ぬれぎぬであると主張する。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
典侍ないしのすけへお言いになった。典侍はきまり悪さも少し感じたが、恋しい人のためには濡衣ぬれぎぬでさえも着たがる者があるのであるから、弁解はしようとしなかった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とんだ濡衣ぬれぎぬを着なきゃならないんだ——いつか江戸を荒し廻った強賊の「疾風はやて」が、偽の中気病ちゅうきやみになって居たことがあるから一応は釜六も疑って見たのさ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
間の山から紀州へ向っての山中で、盗賊の濡衣ぬれぎぬを乾かすためにあの女の裸体姿を見て、自分は何とも思わないのに、相手の女をしてかおを赤くさせたこともある。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どういう了簡で濡衣ぬれぎぬを着たかは存じませぬが、江戸橋にて友之助の引廻し捨札を見れば、う/\云々うんぬん、よしや目指す敵は討ち得ずとも、我に代って死罪の言渡しを受けたる友之助を助けずば
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あだし男と戯れるところ……生んだばかりの私生児を圧殺するたまらなさ……嫁女よめじょ濡衣ぬれぎぬを着せて、首をくくらせる気持よさ……憎い継子ままこを井戸に突落す痛快さなぞ……そのほか大勢で生娘きむすめいじめる
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けれども、ほかの事と違って、そんな淫奔いたずらをしたという濡衣ぬれぎぬをきせて追い出すというのはあんまりだ。里へ帰って親兄弟や親類にも顔向けが出来ない。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とんだ濡衣ぬれぎぬを着なきやならないんだ、——いつか江戸を荒し廻つた強賊の『疾風はやて』が、僞の中氣病みになつてゐたことがあるから一應は金六も疑つて見たのさ
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「驚いたね、ああして、男世帯の銀床ぎんどこえものは女っ気と亭主の片腕だと、町内でこんな評判を立てられているところへ、お前だけが俺に濡衣ぬれぎぬを着せようというものだ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
決していいかげんなことを言ったのではありませんよ。それは濡衣ぬれぎぬというものです
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どうも身に覚えのない濡衣ぬれぎぬたもとから巾着が出て板の間の悪名あくみょうを付けられたからは、おとっさんが物堅いから言訳を申しても立たない、たれにも顔を合されないからいっその事一と思いに死のうというので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
身に覚えのない不義の濡衣ぬれぎぬて、しばらく何処にか隠れていてくれれば、三年の後にはきっと取り立ててやる。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一方で私のためにそうした濡衣ぬれぎぬを着せられておいでになる方もお気の毒なものだ
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あられもない濡衣ぬれぎぬをきせて、たった一人の姉を狂い死にさせた七人のかたきを唯そのままに置くまいと堅く決心したが、なにをいうにも相手はみな大の男である。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
松島のあまの濡衣ぬれぎぬれぬとて脱ぎ変へつてふ名を立ためやは
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おらちは身におぼえのない濡衣ぬれぎぬであることを説明しても、お福はなかなか承知しなかった。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そりゃあ思いもつかねえ濡衣ぬれぎぬだ。なるほど友達のつきあいで、列び茶屋の不二屋へ此中このじゅうちょいちょい遊びに行ったこともあるが、なにも乙にからんだことを言われるような覚えはねえ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その筋道がよく判りませんで、妹が何かの濡衣ぬれぎぬでも着るようでございますと、妹は気の小さい女でございますから、あんまり心配して気ちがいにでもなり兼ねません。それが不便ふびんでございまして……。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)