)” の例文
しかし、時折り牡山羊は檻から外へべり出て、菜園の霜柱をピョンピョン踏みつぶしながら、表の通りへ逃げ出してゆくことがある。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
すると、間遠い魚の影が、ひらりと尾ひれひるがえして、べらかな鏡の上には、泡一筋だけが残り、それが花瓣のようなしとやかさで崩れゆくのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何という可愛らしさだろう、まるで眠っている西洋人形だ、細面で、あごから首筋へかけての皮膚がべこそうで、東洋人には珍らしい濁りのない白さだ。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
やさしく咽喉のどべり込む長いあごを奥へ引いて、上眼に小野さんの姿をながめた小夜子は、変る眼鏡を見た。変るひげを見た。変る髪のふうと変るよそおいとを見た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岩や岩窟の中へは無数の小波さざなみがすがる手を投げ入れ、又進んでは水のしたたる岩をつかみ、恐しく強い塩の力を持った、すばしこくべこく長い水の指を遠い陸の方へ振っていた。
歸路かへり眞闇まつくらしげつたもりなかとほときぼくんなことおもひながらるいた、ぼくあしべらして此溪このたにちる、んでしまう、中西屋なかにしやではぼくかへらぬので大騷おほさわぎをはじめる
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
すゝきの原をべる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
台所のひさしから家根やねに飛び上がる方、家根の天辺てっぺんにある梅花形ばいかがたかわらの上に四本足で立つ術、物干竿ものほしざおを渡る事——これはとうてい成功しない、竹がつるつるべって爪が立たない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ここです」と藤尾は、軽く諸膝もろひざななめに立てて、青畳の上に、八反はったん座布団ざぶとんをさらりとべらせる。富貴ふうきの色は蜷局とぐろを三重に巻いた鎖の中に、うずたか七子ななこふたを盛り上げている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銅板に砂を塗れる如き顔の中にまなこ懸りて稲妻いなずまを射る。我を見て南方の犬尾をいて死ねと、かの鉄棒を脳天より下す。眼をさえぎらぬ空の二つに裂くる響して、鉄の瘤はわが右の肩先をべる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いたずらに足の底にふくれ上る豆の十や二十——と切り石の鋭どき上になかば掛けたる編み上げのかかとを見下ろす途端とたん、石はきりりとめんえて、乗せかけた足をすわと云うに二尺ほどべらした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君がべると、二人共落ちてしまうぜ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)