柔和おとな)” の例文
主人はあんな事を、柔和おとなしいAさんに頼んだのを後悔しはじめた。彼は下駄を突つかけて、未見の男目がけて緊張して歩いて行つた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「サア、新さんが柔和おとなしいからね。」と嫂も曖昧あいまいなことを言った。そうして溜息をいた。その顔を見ると、何だか望みが少なそうに見える。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母「汝口がえらいから人中へ入って詰らねえ口利いては旦那様の顔に障るから気イ付けて能く柔和おとなしく慎しんでてこうよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかも「柔和おとなしい馬を村中探したがえから」と、探すに事を欠いて「ようやっと小松川から盲目馬を一匹牽いてきやした」
ちゝにまで遠慮ゑんりよがちなればおのづからことばかずもおほからず、一わたしたところでは柔和おとなしい温順すなほむすめといふばかり、格別かくべつ利發りはつともはげしいともひとおもふまじ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
逃ぐる者をば龍となりて追ひ、齒や財布を見する者にはこひつじのごとく柔和おとなしきかの僭越のうから 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
柔和おとなしいというよりはいくじのないといったほうがほんとうの、からきしだらしのなかった、臆病だった、そのくせいたってみえ坊だったわたしは、いまだ嘗て
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
何しろ柔和おとなしい足立さんも今日はよほど激していたようでした
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
あんたはおうち柔和おとなしやかに裁縫しごとをなすっていらっしゃるは、どうも恐入りますねえ、ド、どうも富五郎どうも頂きました
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
柔和おとなしいというよりはいくじのないといったほうがほんとうの、からきしだらしのなかった、臆病だった、そのくせいたってみえ坊だったわたしは、いまだかつ
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
我れも他人の手にて育ちし同情を持てばなり、何事も母親に気をかね、父にまで遠慮がちなれば自づからことばかずも多からず、一目に見わたした処では柔和おとなしい温順すなほの娘といふばかり
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
作「えゝごく柔和おとなしい人で、墓参はかめえりばかりして居てね、身体がわりいから墓参りして、なんでも無縁様の墓ア磨けば幻術が使えるとか何とか云ってね、願掛がんがけえして」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わきかへるなみだ人事ひとごとにして御不憫おいとしぢやうさま此程このほどよりのおわづらひのもとはとはゞなにゆゑならず柔和おとなしき御生質たちとてくちへとてはたまはぬほどなほさらにいとほしおこゝろ中々なか/\ふやうなものにはあらずこのふみ御覽ごらんぜばおわかりになるべけれど御前おまへさま無情つれなき返事へんじもしあそばされなばのまゝに居給ゐたまふまじき御决心ごけつしんぞと
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かたわらの茶見世へ這入ると、其処に四十八九になる婦人が居ります。髪は小さい丸髷に結い、姿なりも堅いこしらえで柔和おとなしい内儀かみさんでございます、尾張焼の湯呑の怪しいのへ桜を入れて汲んで出す。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)