打物うちもの)” の例文
薄くてぬるい茶に、かびの生えたような打物うちものである。菅田平野は茶をひと口すすっただけで、あとは手を出さなかった。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょうど、現在の私の宅と同町内で、その頃長寿斎ちょうじゅさいという打物うちものの名人があった、その横丁を曲がって真直突き当った家で、いろいろ家禽かきんが飼ってあった。
掛たり引馬ひきうま一疋銀拵ぎんごしらへの茶辨當には高岡玄純付添ふ其餘は合羽籠兩掛等なり繼いて朱塗しゆぬりに十六葉のきくもんを付紫の化粧紐を掛たる先箱二ツ徒士五人打物うちもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寺にはかねて武具まで持ち込んであったと見え、たちまち駆けつどって来た人々はみんな小具足に身を固め、やり長柄ながえなど、思い思いの打物うちものをかかえていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃ようやく一般に用ひられたと言つても、まだ寶玉の屑のやうに貴かつた白砂糖で作つた打物うちもので、中にあるあんはねつとりして、良い香氣が食慾をそゝります。
萬一事有ことあるの曉には絲竹いとたけに鍛へしかひな白金造しろがねづくり打物うちものは何程の用にか立つべき。射向いむけの袖を却て覆ひに捨鞭すてむちのみ烈しく打ちて、笑ひを敵に殘すはのあたり見るが如し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それに浪之助には何となく、この二人の試合なるものが、単なるわざの比較ではなく、打物うちものこそ木剣を用いておれ、恨みを含んだ真剣の決闘、そんなように思われてならなかった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四方よもの壁と穹窿まるてんじょうとには、鬼神きじん竜蛇りょうださまざまの形をえがき、「トルウヘ」といふ長櫃ながびつめきたるものをところどころにゑ、柱にはきざみたるけものこうべ、古代のたて打物うちものなどを懸けつらねたる
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
梶田さんも無論に働かされて、鯉の形をした打物うちものの菓子を参詣人にくばった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
誰かゞ粗匇そそうをしたのであろうと、取り敢えず金細工の者に仰せつけられ、黄金の打物うちものを以て代りの蓋をお作りになりましたが、後年関白殿が滅亡のとき、聚楽のお城を缺所になされましたら
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あのかくの声をおききでないか。打物うちものの光をお見でないか。
掛け宰領さいりやう二人づつあとより麻上下あさがみしもにて股立もゝだちとりたるさむらひ一人是は御長持おながもちあづかりの役なりつゞいて金御紋きんごもん先箱さきばこ二ツ黒羽織くろはおり徒士かち八人煤竹すゝたけ羅紗らしやふくろに白くあふひの御紋を切貫きりぬき打物うちもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あっしの親父祖父じいも、家代々の打物うちもの造り、よろいかぶとに限らず、その道では名工といわれた人。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良人は、打物うちもの取っては、強者つわものですから、そッと、まくらに近づき、濡れ髪がお手に触れたら、さそくの一太刀で、首打ち落してしまうことです。ゆめ、打ち損じてくださいますな
切付しふくろ打物うちもの栗色くりいろ網代あじろの輿物には陸尺十二人近習の侍ひ左右に五人づつ跡箱あとばこ二ツ是も同く黒ぬり金紋付むらさきの化粧紐けしやうひもを掛たりつゞいて簑箱みのばこ一ツ朱の爪折傘つまをりがさ天鵞絨びろうどの袋に入紫の化粧紐を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それをかぶとの八幡座のかがやきと誇る武者のこころがいまわしくなり、武具馬具打物うちものなどのすべてのそうした血なまぐさい物に囲まれている日常が、耐えられない苦痛になっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行家は、そこに入って、義朝や一族の位牌を見ると、すぐ涙をもよおして、壇に向って礼拝していたが、ふと、べつな小さい位牌いはい厨子ずしの前に、紅と白の打物うちものの干菓子が供えてあるのを仰いで
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常にうまやにおく馬も、まだ二、三頭しか持たない身分である。門前には、邸内の男たる者はひとり残らず、打物うちものって集まったが、総人数、わずか三十余名。これが、家の子郎党の全員なのだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)