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手繰
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たぐ
ふりがな文庫
“
手繰
(
たぐ
)” の例文
ふと思ひついて、頭の上を手さぐりして、天井から
斜
(
はす
)
ツかひに引つ張られてゐる紐を掴んで、
手繰
(
たぐ
)
り寄せると、大丈夫手答へがある。
猫と庄造と二人のをんな
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
しかし私の乱れた頭はただ一つの糸をも確かに
手繰
(
たぐ
)
り出すことができない。私は夜ふくるまでここに茫然と火鉢の火を見まもっていた。
夏目先生の追憶
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
「お品さん、心配することはないよ。俺で出来るだけのことはやってみよう。手掛りさえありゃ、
手繰
(
たぐ
)
って手繰れないことはあるまい」
銭形平次捕物控:089 百四十四夜
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
すさまじく
憤怒
(
ふんど
)
の色をあらわし、なかなか芝居に骨がおれる丸本は、竹見の手首を縛った麻紐を、ぐっと手元へ二度三度
手繰
(
たぐ
)
った。
火薬船
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
紐を
手繰
(
たぐ
)
って腰へ挿み、藤八猿を肩にしたまま、お葉は田安家の土塀の内側の、植込の根元に身をかがめ、じっと
四辺
(
あたり
)
を見廻した。
仇討姉妹笠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
釣をしている者も、網を
手繰
(
たぐ
)
り込んでいる者もあったが、皆裸体で、黒く日に焼けた身体と黒い頭髪とからして野蛮人みたいであった。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
すぐ、スルスルと長くつないだ帯の影が牢の中へ
手繰
(
たぐ
)
りもどされて、その端も見えなくなった。だがまだ彼は仰向いたままでいた。
私本太平記:09 建武らくがき帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
これを
手繰
(
たぐ
)
ったら、市郎の身体は無事に
引揚
(
ひきあ
)
げられたかも知れぬが、
其
(
その
)
綱の端が彼の胴に
縛
(
くく
)
られてあると云うことを誰も知らなかった。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
同じく続く歌で、あなたが、越前の方においでになる遠い路をば、
手繰
(
たぐ
)
りよせてそれを
畳
(
たた
)
んで、焼いてしまう
天火
(
てんか
)
でもあればいい。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
私はホッとして、今度こそは見失わぬように、ずっとその跡の近くまで寄添って、糸でも
手繰
(
たぐ
)
るようにしながら進みはじめた。
寒の夜晴れ
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
そっと手許の糸を
手繰
(
たぐ
)
ると財布がひとりでするすると動き出すというような深刻な教育法をも実行した事があったようである。
重兵衛さんの一家
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
ですから、内部の円筒が気流によって廻転を始めるにつれ、やがて紐は
手繰
(
たぐ
)
られてピインと張り、片方の端にある短剣を吊り上げたのです。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
これはたまらぬ、とでもいったような動作で、すばやくなにかを
手繰
(
たぐ
)
ると、大きな包みを水の中から引揚げ、それを肩に
担
(
かつ
)
いで駆けだした。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
徳次が向ふ岸まで船を
手繰
(
たぐ
)
り寄せて行つた頃には、房一はやつとこさ河原に降り立つて、近づく徳次に向つて親しみ深い微笑を浮かべてゐた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
そなたの導力が
手繰
(
たぐ
)
るまにまに、やがてわたしも、そなたと一つ世界に運び上げられよう。あな讃むべき因果の
捌
(
さば
)
き。あな有難や法の掟……。
阿難と呪術師の娘
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
一も二もなくお藤の投げた綱に
手繰
(
たぐ
)
りよせられて、送り狼と
相々傘
(
あいあいがさ
)
、夢みるような心もちのうちにこの瓦町の家へ届けられてきたのだが……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
凧を持つたのは凧を上げ、
独楽
(
こま
)
を持ちたるは独楽を廻す。手にものなき
一人
(
いちにん
)
、一方に向ひ、凧の糸を
手繰
(
たぐ
)
る真似して笑ふ。
紅玉
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
特に原因結果の鎖を
手繰
(
たぐ
)
って、先から先へと考えを進めてゆく場合には、鎖の輪から輪に移りゆくたびごとに誤りの滑り入るべき隙があるゆえ
我らの哲学
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
夜具を掻きのけたかと思われる様子で、やがてキューキューと帯を
手繰
(
たぐ
)
るような音。竜之助の頭は氷のように透きとおる。
大菩薩峠:07 東海道の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
さてその
一片
(
ひとひら
)
を
手繰
(
たぐ
)
らんと為るに、長きこと帯の如し。好き程に裂きては
累
(
かさ
)
ね、累ぬれば、皆積みて一冊にも成りぬべし。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
因果の尽くるとき、彼と吾らの間にふっと音がして、彼一人は
否応
(
いやおう
)
なしに運命の
手元
(
てもと
)
まで
手繰
(
たぐ
)
り寄せらるる。残る吾らも
否応
(
いやおう
)
なしに残らねばならぬ。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
……否……現在でも君と吾輩の上下左右に、眼に見えぬ網を張詰めて、グングンと自分の方へ
手繰
(
たぐ
)
り寄せつつあるのだ
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
それも手釣りのヂカに糸を
手繰
(
たぐ
)
るのと違つて柔軟な竿と糸とを介してやつてくるから、カイヅとなると満点である。
夏と魚
(新字旧仮名)
/
佐藤惣之助
(著)
味わい得たものは何であろう。私らは顧みて快くほほ笑み、過去一年の追憶を美わしき絵巻物を
手繰
(
たぐ
)
るがごとく思い浮かべることができるであろうか。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
公然と
手繰
(
たぐ
)
りあってここに顔を合わせた、そういう、一種のつつましさと心はずみの混った雰囲気が材木置場のまわり、婦人たちの間にただよっていた。
風知草
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
百六十里も
手繰
(
たぐ
)
られて來る力があるに違ひないけれど、糸が餘りに長いので、何うかすると脆く切れさうである。
兵隊の宿
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
帯は枝にかからないでそのまま落ちて来た。彼はいそがしそうにまたそれを
手繰
(
たぐ
)
って初めのようにして投げた。
白っぽい洋服
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
天幕を組み立てた糸がスルスルと
手繰
(
たぐ
)
られて、雫のポタポタする重い油紙が、
跪
(
ひざ
)
まずくように岩盤の上に折り重なる、飯を
炊
(
かし
)
いだあとの煙が、赤樺の梢を絡んで
槍ヶ岳第三回登山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
四人の
身性
(
みじょう
)
について、引ッ
手繰
(
たぐ
)
られるお手数だけでも省けるようにと思いまして、
倖
(
さいわ
)
い、四人のことなら、たいがいわれわれ二人が
一伍一什
(
いちぶしじゅう
)
存じておりますから
平賀源内捕物帳:山王祭の大像
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
鋏がその巣を荒すと、蜘蛛は曲芸師の
巧
(
たくみ
)
さで糸を
手繰
(
たぐ
)
りながら逃げて行く。それを大きな鋏が追駆ける。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
私はその索を
手繰
(
たぐ
)
って引き寄せ、もう十分近づいたと思った頃に、非常な危険を冒して自分の半身ほど立ち上り、そうして船室の天井と室内の一部とを見渡した。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
詳しいことを聞き出して
手繰
(
たぐ
)
って行けば案外な仕事になるかも知れない。夏のことだから氷屋がある。
助五郎余罪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
糸筋
(
いとすじ
)
を
手繰
(
たぐ
)
って
窃
(
ひそ
)
かに洞穴の口に近づいて
立聴
(
たちぎ
)
きすると。親子らしい大蛇がひそひそと話をしている。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
此の如く因果の
鐺
(
くさり
)
を
手繰
(
たぐ
)
りもて行くに、われは神の最大の矜恤、最大の愛憐を消受せしこと疑ふべからず。唯だ凡慮に測り知られぬは我とアヌンチヤタとの上なり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
両かしぎというのは、左右へかしぐようにつける糸目で、凧の
喧嘩
(
けんか
)
には是非これに限る。下糸目にすれば
手繰
(
たぐ
)
った時凧が下を向いて来るし、上糸目にすれば下って来る。
凧の話
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
今
吾
(
われ
)
らのいる前後数町の間は、かつて、測量員すら逡巡して通行しなかったところ、案内者も、今回が初対面、岩角に
縋
(
すが
)
り綱を
手繰
(
たぐ
)
り、または偃松を握りなどし、辛くも
穂高岳槍ヶ岳縦走記
(新字新仮名)
/
鵜殿正雄
(著)
隠居は、それからそれへと、闇太郎から、これまでの、冒険的な生活の、告白を聴きたがって、話の
緒口
(
いとぐち
)
を、
手繰
(
たぐ
)
り続けていたが、ふと、平馬の存在を思い出したように
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
いやどうも
此方
(
こち
)
の棟梁は違ったもの、えらいもの、
男児
(
おとこ
)
はそうありたいと感服いたしました、とお世辞半分何の気なしに云い出でし
詞
(
ことば
)
を、
手繰
(
たぐ
)
ってその夜の
仔細
(
しさい
)
をきけば
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
宮下君はチョッキの下から大きな台紙の写真を
手繰
(
たぐ
)
り出して突きつけた。僕は仔細に
検
(
あらた
)
めて
ロマンスと縁談
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
嶮
(
けわ
)
しい海岸の
断崖
(
だんがい
)
をがたがた走る軽便鉄道や、
出水
(
でみず
)
の跡の
心淋
(
うらさび
)
しい水田、松原などを通る電車汽車の
鈍
(
のろ
)
いのにじれじれしながら、
手繰
(
たぐ
)
りつけるように家へ着いたのであった。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
うしろの黒い海水着をそっと
手繰
(
たぐ
)
り寄せ、わきの下にぴったりかかえこみ、静かに店を出たのですが、二三間あるいて、うしろから、もし、もし、と声をかけられ、わあっと
灯籠
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
お
品
(
しな
)
は
板
(
いた
)
の
間
(
ま
)
に
小
(
ちひ
)
さくなつて
居
(
ゐ
)
た。
軈
(
やが
)
て
藁
(
わら
)
が
竭
(
つ
)
きると
傭人
(
やとひにん
)
は
各自
(
てんで
)
に
其
(
その
)
繩
(
なは
)
を
足
(
あし
)
から
手
(
て
)
へ
引
(
ひ
)
つ
掛
(
か
)
けて
迅速
(
じんそく
)
に
數
(
かず
)
を
計
(
はか
)
つては
土間
(
どま
)
から
手繰
(
たぐ
)
り
上
(
あ
)
げながら、
繼
(
つな
)
がつた
儘
(
まゝ
)
一
房
(
ばう
)
づ
(
ママ
)
ゝに
括
(
くゝ
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
しかし学者は人生または自然の一方を常に凝視して未知の新事業を発見することに努力し、永遠の時を少しでも早く
手繰
(
たぐ
)
り寄せて現代の生活に貢献しようとしているものである。
鏡心灯語 抄
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
これを見たら、いきなり水中へ飛び込んで、竿を引き抜き、そのまま河原へ駆け上がってから、道糸を
手繰
(
たぐ
)
り寄せ、手網は使わないで、遮二無二河原へ鱸を引っ張り上げるのである。
那珂川の鱸釣り
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
一つの端緒から
手繰
(
たぐ
)
り手繰りしてゆくうちにそれからそれと五日間も書き続けてまだその項が終らないような事もあった。おのおのの項が終るごとにそれを一つに纒めて
紙捻
(
こより
)
で綴じた。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
折角
手繰
(
たぐ
)
った糸が又この異様な新な買手の
為
(
た
)
めにプッつりと切り離たれたのは、友にとって打撃に相違なかったが、左程落胆している模様も見えなかった。ここで私達は別れたのである。
真珠塔の秘密
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
僕は東先生の内にいる間、性慾上の
刺戟
(
しげき
)
を受けたことは少しもない。強いて記憶の糸を
手繰
(
たぐ
)
って見れば、あるときこういう事があった。僕の机を置いているのは、応接所と台所との間であった。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
銭をじゃらじゃら鳴らせ、売上高の勘定を始めるのを見ると、許生員は
𣏾
(
くい
)
から幅ったい日覆を外し、陳列してあった品物を
手繰
(
たぐ
)
り寄せた。木綿類の畳物と
綢
(
きぬ
)
類の巻物で、ぎっしり二た
行李
(
こうり
)
に詰った。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
どこから出したか、細い鐵の鎖をざら/\と
手繰
(
たぐ
)
りながら、殆ど飛びつくやうな勢ひで、弟子の背中へ乘りかかりますと、否應なしにその儘兩腕を捻ぢあげて、ぐる/\卷きに致してしまひました。
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
伝平は叫びながら
手綱
(
たづな
)
を
手繰
(
たぐ
)
ったが、もう間に合わなかった。
馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
手
常用漢字
小1
部首:⼿
4画
繰
常用漢字
中学
部首:⽷
19画
“手繰”で始まる語句
手繰寄
手繰廻