なま)” の例文
王成おうせい平原へいげん世家きゅうかの生れであったが、いたってなまけ者であったから、日に日に零落れいらくして家は僅か数間のあばら屋をあますのみとなり
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
花隈はなくまくまというと、この辺の漁村や町では、こわがられている親分である。もうひとりは生田いくたの万とかいう精猛せいもうなるなまものであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而して驚かされた乳酪のかたまりが椅子の上からすべり下り、料理人コツクが細かに玉葱の庖丁を刻み、なまけたソフアの物思が軟かに温かい欠伸をつく。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
既に久しい間、リツプは家から逐出される度に、村中の学者、儒者、その外のなまけものが開いて居る一種の常置会に臨むことにして居ました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
私はやくざななまけ者で、いまなお根っからうだつがあがらない。茨の道に行き悩んでは覚束ない命脈の行末を思い、また自分をあさましく感じることがある。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
といったアンバイ式に宣伝して世界中をみんななまけ者にしちまおうと思って発明したのがこの基督教なんだ。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まあ。養生をしなくてはいけないのだ。これから二人でどこか山奥の方へ行ってすっかりなまけるのだね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
じめじめした細い横町、なまけものの友達と一緒に、厭な学校の課業のあいだを寝転ねころんでいた公園のしめやかな森蔭の芝生——日に日に育って行く正一を見るにつけて
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もうとっくに片付けてしまっているだろうと思ったのに、意外であった。その時僕は少しなまけて来たなと思った。あの時お蝶は三十分が間も何を思っていたのだろう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
商売をなまけて居るから借金に責められるが、持立ての女だから、見え張った事ばかりて居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただいくらなまけても一番だと思へばこそ勉強しなかつたのだ。はやくさういつてくれさへすればおさらひもしたし、ずる休みもしなかつたのに。思へばみんなが怨めしい。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
備前の新太郎少将が、ある時お微行しのびで岡山の町を通つた事があつた。普魯西プロシヤのフレデリツク大王は忍び歩きの時でも、いつもにぎふとステツキり廻して途々みち/\なまものを見ると
私の事はなまけ者だの、低能だの、と顔を見る度に罵倒するので、我慢しきれなくなって、恰度ジョホールへ帰ろうとしている伯父に従いて、私も南洋へ行ってしまったんです。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
可哀そうにおしのような自然、それでいて、意志だけは持っている。その意志を人によって表現したがっている。一体、人というものはなまけもので、小楽こらくをしたがる性分である。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
戸川先生は私にわざわざ那覇からつれて来たからには、一番になってくれないと困る、と言われたが、私は元来がなまける性質なので、いつも五、六番位のところに落着いていた。
私の子供時分 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
これは、なにもその方面の学者がなまけているというのでは決してございません。およそ物には順序というものがありまして、まだそこまで進んでおらないということでございます。
自力更生より自然力更生へ (新字新仮名) / 三沢勝衛(著)
その仲間と云うのは、ゴサインと云う家の末息子で、プラタプと云うなまけ者でした。
なまけてる者らを刺激し、疲れてる者らを元気づけ、考え込んでる者らをき立て、ある者を快活にし、ある者を奮起させ、ある者を憤激させ、すべての者を推し動かし、学生を鼓舞し
平素はのらくらしていて随分なまけ者だが、一朝事があると——と云えば大袈裟だけれど、例えば子供が病気で入院したりなんかしてる場合には、人手の少い家の中でいろんな用をしながらも
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なまけもんだ! 天からマンナが降るのを待ってるみてえだ。ブルスキーの連中は自分で云っている。トラクターで楽しようって。馬鹿のより合いだ。共同耕作の暮しなんて……信じられねえ。
理窟をねながら、なまけて恋をお為続しつづけなさるが好い。
なまけ者だね!」と彼は快活に言った。
「一生懸命にやらなくちゃいけないよ。なまけちゃいけないよ。それにうんと急いで、ゆるゆるしていちゃだめだよ。一日おくれたらもう後悔してもだめだ。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自分にはない心の余裕が羨やまれ、私はそんな、なまけ者らしい、呑気のんきな羨望の念を持ったりしたのだ。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
東京へ帰って来てからの笹村は、しばらくなまけ癖がぬけなかった。昼は庭に出て草花の種をいたり、大分足のしっかりして来た子供を連れ出して、浅草へ出かけなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ものぐさななまけ者を主人公に取扱つたものに、ガンチヤロフの『オブロオモフ』がある。
今夜もなまけものの癖として品川へ素見ひやかしにまいり、元より恵比寿講をいたす気であるうちあがりましたは宵の口、散々さんざぱら遊んでグッスリ遣るとあの火事騒ぎ、宿中しゅくじゅうかなえくような塩梅しき
そしてわたくしは「あんたはなまけものなの」といた。すると逸作は答えた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最後審判の日——といふと耶蘇教では一番やかましい日で、これまでなまけてばかしゐた神様が、むつくり起き上つて、区裁判所の判事のやうに気難きむづかしい顔をして人間の裁判さばきをする日なのだ。
そして二人がすこしでもなまけると叱りつけたが、夫婦は老婆の指揮に安んじていて怨みごとはいわなかった。三年過ぎてから家はますます富んだ。その時になって老婆が帰るといいだした。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
結構な発明で、「奥様」と呼ばれてなまけてゐた女が、「かみさん」と言はれて、急に起き上つて働くといふ事なら、それを下級吏員の家庭だけに限るにも及ぶまい。何事も世間の為めである。