心地ごこち)” の例文
酒のように酔い心地ごこちにのみ込みながら「あなただけにそうはさせておきませんよ。わたしだって定子をみごとに捨てて見せますからね」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
巡査おまわりさんに咎められましたのは、親父おやじ今がはじめてで、はい、もうどうなりますることやらと、人心地ごこちもござりませなんだ。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女かのじょは、しばらく、ぼうっとして、心地ごこちになってしまいました。なにか、自分じぶんきなはなってかえろうとおもいました。
花と少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いままでの分は、足にぴったりとしてはき心地ごこちはよかったが、ひどい古靴ふるぐつで、雨がふると、じくじくと水がしみこんできた。
お種は旅で伊豆の春に逢うかと思うと、夫に別れてから以来の事を今更のように考えてみて、海岸の砂の上へ倒れかかりそうな眩暈めまい心地ごこちに成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのわたくし幾度いくどとなくこの竜宮街道りゅうぐうかいどうとおりましたが、何度なんどとおってても心地ごこちのよいのはこの街道かいどうなのでございます。
白雪のふれば幽かに、たまゆらは澄みてありけど、白雪のぬるたまゆら、ほのかなるまたもにけり。白雪のはかな心地ごこちの、我身にもるかたもなし。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鉱泉と名のつく以上は、色々な成分を含んでいるのだろうが、色が純透明だから、はい心地ごこちがよい。折々は口にさえふくんで見るが別段の味もにおいもない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は部屋を決める時、半永久的に床を自分の趣味で張りかえ、壁紙や窓帷カアテンも取りかえて、建築の基本的なものに触れない程度で、住み心地ごこちの好いように造作を造りかえた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところがやがて、青春や、ほがらかな天気や、さわやかな空気や、さっさと歩く快さや、しげった草の上にひとり身を横たえる心地ごこちや——そうしたものの方が勝ちを占めてしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
やがてリストが客人や門弟に囲繞いにょうされて、自作のロ短調のソナタについて長々と説明を始めた頃、ブラームスはへその緒を切って以来始めてすわった安楽椅子の心地ごこちのよさに誘われて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
日が暮れてみちを見失った旅人の話、むかし彼が子供の頃よくきかされたお伽噺とぎばなしに出てくる夕暮、日没とともに忍びよる魔ものの姿、そうした、さまざまのおび心地ごこちが、どこか遠くからじっと
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ねむり心地ごこちにあるいてゆくのです。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
うぐいすも花の色香に心地ごこち
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
その右手の頑丈がんじょうな踏み心地ごこちのいい階子段はしごだんをのぼりつめると、他の部屋へやから廊下で切り放されて、十六畳と八畳と六畳との部屋が鍵形かぎがたに続いていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
町の曲がりかどで、急に車がまるとか、また動き出すとか、何か私たちの乗り心地ごこちを刺激するものがあると、そのたびに次郎と末子とは、兄妹きょうだいらしい軽いみをかわしていた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
総桐そうぎり箪笥たんすが三さおめ込みになっており、押入の鴨居かもいの上にも余地のないまでに袋戸棚ふくろとだなしつらわれ、階下したの抱えたちの寝起きする狭苦しさとは打って変わって住み心地ごこちよく工夫されてあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると御尻おしりがぶくりと云った。よほど坐り心地ごこちが好くできた椅子である。鏡には自分の顔が立派に映った。顔のうしろには窓が見えた。それから帳場格子ちょうばごうしはすに見えた。格子の中には人がいなかった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白雪の果敢はか心地ごこちの我身にも遣る方もなし。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふと車がまって梶棒かじぼうがおろされたので葉子ははっと夢心地ごこちからわれに返った。恐ろしい吹き降りになっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ある日も私は次郎と連れだって、麻布あざぶ笄町こうがいちょうから高樹町たかぎちょうあたりをさんざんさがし回ったあげく、住み心地ごこちのよさそうな借家も見当たらずじまいに、むなしく植木坂うえきざかのほうへ帰って行った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして葉子の言葉どおりちょっと住み心地ごこちのいい間取りで、玄関を上がって、椅子いす卓子テイブルのほどよく配置されたサロンを廊下へ出て、奥の方へ行くと、そこに住居すまいの方とけ離れた十畳の座敷があり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)