居睡いねむり)” の例文
しからず、親に苦労を掛ける。……そのくせ、他愛たわいのないもので、陽気がよくて、おなかがくちいと、うとうととなって居睡いねむりをする。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旦那様は、安楽椅子に寄懸って、もう居睡いねむりをしてござった。だがそれは狸寝入たぬきねいりらしく、ときどきまぶたがぴくぴくとふるえて、薄眼があく。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東片町時代には大分老耄ろうもうして居睡いねむりばかりしていたが、この婆さん猫が時々二葉亭の膝へ這上はいあがって甘垂あまったれ声をして倦怠けったるそうにじゃれていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
山に居る頃はお房もよく歌ったうさぎの歌のことや、それからあの山の上の家で、居睡いねむりしてはよく叱られた下婢おんなかわずの話をしたことなぞを言出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
理窟をいふ間で手を叩いて大きく笑つたり、説諭を聞く間で生欠伸なまあくびをしてこくりこくりと居睡いねむりをするも好し。
寒くなると、爺さんは下駄棚のかげになった狭い通路の壁際で股火またびをしながら居睡いねむりをしているので、外からも、内からも、殆ど人の目につかない事さえあった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お島は針の手を休めて、裁板の前にうとうとと居睡いねむりをはじめている、彼の顔を眺めてつぶやいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二、三間きに箱の主がいて、牀几しょうぎに腰をかけたり、ぼんやり、セーヌ河畔かはんの釣客を眺めたり、煙草の煙を輪に吐いたり、葡萄酒の喇叭ラッパ飲みをしたり、居睡いねむりをしたりしている。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
乃公おれそっと校長の室へ行って見た。来ない筈だ。木乃伊はストーブの側で椅子にもたれて、心持好さそうに居睡いねむりをしている。うなると校長も他愛ないものだ。乃公が近傍ちかくへ行っても知らずにいる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ジヤニイノはかたえの階段に至り、頭を腕に埋めて居睡いねむりする。
野獣けもののように土だらけな足をして谷間たにあい馳歩かけあるいた私が、結構な畳の上では居睡いねむりも出ました位です。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのころ、三吉少年探偵は、師の事務所に一人ポツンと、たくを前にして坐っていた。しかし彼は居睡いねむりをしているのではない。卓の上には大きな東京市の地図が拡げられてあった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
水でも飲ましてりたいと、障子を開けると、その音に、怪我けがどころか、わんぱくに、しかも二つばかり廻って飛んだ。仔雀は、うとりうとりと居睡いねむりをしていたのであった。……憎くない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういって局長は、受話機をとると、れた手つきで、そのうえに鉛筆を走らせた。これが居睡いねむりから覚めたばかりの人であろうかと疑問がおこるほど、局長は、極めて敏捷びんしょうに、事をはこんだ。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
受験準備の勉強をおこたって居睡いねむりをするなんて、まあ情けない人ね。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)