大仰おおぎょう)” の例文
こういう人物の習いとして、苦しい懸け引きの必要上、大仰おおぎょう駄法螺だぼらを吹いたこともあった。他人に対して誠意を欠くこともあった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さすがに事の大仰おおぎょうになるのに遠慮されて御無沙汰ごぶさたを申し上げているとこんなことをおりおり歎息たんそくしておいでになるのでございます
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
大きな役ばかり引受けていましたが、演技はがさつで、味もそっけもなく、やたらにえ立てる、大仰おおぎょうな見得を切る、といった調子でした。
と早口にいって、仲間の一人が、すでに武蔵の刃にかかって仆れたことを、大仰おおぎょうな手つきで告げているらしく見える。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
料亭など借りるのは出来過ぎているし、寮は人を介して頼み込むのが大仰おおぎょうだし、その他に頃合いの家を探すのであるが、とかく女の身は不自由である。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勘次も彦兵衛も、にやりと顔を笑わせたが、に組の常吉は、冗談どころではないといったふうに大仰おおぎょうに手を振って
金蔵破りのほうはいっさい心配はいらぬと大仰おおぎょう頬桁ほおげたをたたいておったのを、わしはたしかにこの耳で聞いたぞ。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼はディーネルの両手を取り、大仰おおぎょうな親しさで叫びだした。店員らは忍び笑いをし、ディーネルは顔を赤らめた。
「所が」おきな大仰おおぎょうに首を振って、「その知人しりびとの家に居りますと、急に往来の人通りがはげしくなって、あれを見い、あれを見いと、ののしり合う声が聞えます。 ...
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「今日はほんとに変な日じゃ」長者は左膳の走って行くその大仰おおぎょうな様子を見て、いぶかしそうに云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大分大仰おおぎょううわさが伝わって、末世と雖も誠の志があれば奇瑞きずいが現れるのであると、一時はえらい評判になった。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、俊三が、すぐあとからついて来て、声をしのばせながら、しかし、いかにも大仰おおぎょうらしく言った。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
花輪の一箇一箇が出来るだけ大仰おおぎょうに足を高々とつけて、それを機会として自家広告をしているような葬式を通りぬけて、かえってからよせ鍋の夕飯を五時すぎにすませ
……どうも手前、田舎者でございまして、さようなことはとんと勝手が分らぬもので、……(大仰おおぎょうに右手を指し)では、なよたけを呼んで参りまする。……(右に退場)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「これはまた大仰おおぎょうな。試合は真剣の争いにあらず、勝負は時の運なれば、勝ったりとて負けたりとて、はじでもほまれでもござるまい、まして一家の破滅などとは合点がてんなりがたき」
「意地わるっ! こんなに、ちゃんと着てしまっているのに——」クリーム色のピケで、型ばかりはひどくハイカラだが、お手製らしいワンピースを、大仰おおぎょうに手をひらいて見せた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
誰かにうと、大仰おおぎょうに背中を見せる。すると、一瞬間、重いのを忘れるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「いざという場合に柵がはずれなんだりすると大変だぜ。俺等ちゃんと用意しとるんだ。」健二はわざと大仰おおぎょうに云った。それで相手の反応を見て、どういうつもりか推し測ろうとする考えだった。
豚群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ひどくめかしこんで——とは波子があとで言ったことだが、札幌さっぽろあたりで作ったと覚しいよそ行きの洋装は、きたないこのバラックを訪ねるにしてはたしかに大仰おおぎょうで、顔もいやに厚化粧をしていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
と元よりたゝかぬとは知っていますが仕打は大仰おおぎょうなもので
と答えるのを、大仰おおぎょうに眉をひそめて受けて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、左近将監は大仰おおぎょうにうなずきました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
無事の時ならばなんでもないことが、大仰おおぎょうに仔細ありげに考えられますから、よっぽど注意しないといけません。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
クリストフは、飾りたてた発声法をもってる大仰おおぎょうな甘ったるい節回しのイタリー歌劇オペラを重んじなかったが、それらの詩劇をもまた同様に重んじなかった。
座敷にはがともされて、門前からは大臣の前駆の者が大仰おおぎょうに立てる人払いの声が聞こえてきた。女房たちが
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「——なんと大仰おおぎょうな。母を迎えにまいるのは秀吉のわたくし事。……そう大兵を供して参るには及ばぬことだ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤井ふじいと云う弁護士は、老酒ラオチュさかずきしてから、大仰おおぎょうに一同の顔を見まわした。円卓テエブルのまわりを囲んでいるのは同じ学校の寄宿舎にいた、我々六人の中年者ちゅうねんものである。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あいつらのつらという面、目という目は、みんなこっちばっかりを見合せていやがる——だから、この一匹の馬のためにあの人数が繰出されたと見るよりほかはねえ、大仰おおぎょうなこった。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おお、ひょろ松じゃないか。大仰おおぎょうな旅支度で、いったい、どこへ行く」
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「稀代の逸品でげす、拝むだけで眼の保養でげす」などと大仰おおぎょうに頭を叩いてからというものは、お艶の名はその唄うお茶漬音頭とともに売り出して、こんな莫迦騒ばかさわぎの好きな下町の人びとの間に
「え?」と、それを聞くと金兵衛は、わざと大仰おおぎょうに驚いて見せたが
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あまりにお気の毒なので御辞退ができなかったのだが、これをまた世間は大仰おおぎょう吹聴ふいちょうをするだろうね。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
両手を縛れ、膝を縛れ——などと大仰おおぎょうにさわぎだすと、伊織は、それらの手を振り払って
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物語らんと座を構えると、事が大仰おおぎょうになりますが、まあ掻いつまんで申し上げれば、その日は七月十二日、朝の五ツ時(午前八時)に笹川の鶴吉は直七附き添いで高輪へ出て来る。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年の若い巡査は警部が去ると、大仰おおぎょうに天を仰ぎながら、長々ながなが浩歎こうたん独白どくはくを述べた。何でもその意味は長いあいだ、ピストル強盗をつけ廻しているが、逮捕たいほ出来ないとか云うのだった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大仰おおぎょうに言えば、ますに芋の子を盛ったようなたかり方だから、七兵衛の韜晦とうかいにはいっそう都合がよいというもので、ちょっと鼻の先で空世辞を言いながら、人の蔭に隠れて、湯の中へ身を沈め
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どなるように泰軒がいうと、忠相はにっこりして大仰おおぎょうに膝を打った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに続いて紋太夫がさも大仰おおぎょうに云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
縄尻はそばのおおきな石に巻きつけてあるのだった。もう「ウ」も「ス」もいい得ない死人の体をそう大仰おおぎょうくくっておかないでもよさそうなものと又八はながめていたことだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると金三は「こっちだよう」と一生懸命にわめきながら、畑のある右手へ走って行った。良平は一足ひとあし踏み出したなり、大仰おおぎょうにぐるりと頭を廻すと、前こごみにばたばた駈け戻って来た。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
与八の驚き方があまりに大仰おおぎょうなのでおかしくなったのですが、与八はまた、お松がながの病気から身の上を悲観して自害でもするつもりと勘違いをしているので、お松の手から短刀をもぎ取って
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御息所みやすどころの感謝しておられる志も、せめてこの際に現わしたいと中宮は思召したのであるが、宮中からの賀の御沙汰ごさたを院が御辞退されたあとであったから、大仰おおぎょうになることは皆おやめになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
とびのいた与吉は、大仰おおぎょうに顔をしかめつつ甲をなめて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、朋輩の女郎たちはいかに心配したかということを、さも大仰おおぎょうにいって、たしなめる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると剣梅鉢けんうめばちの紋ぢらしの数寄すきらした、——真鍮の煙管である。彼は忌々いまいましそうに、それを、また、畳の上へ抛り出すと、白足袋しろたびの足を上げて、この上を大仰おおぎょうに踏みつける真似をした。……
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ようやく、それをあけて井戸端まで来て見ると、後ろに倒れた神尾主膳は、福村の手によってしきりに介抱されています。介抱している福村は、度を失うてあわてきっているのがあまりに大仰おおぎょうです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勘次は大仰おおぎょうに頷いて胸板を一つ叩いて見せた。
元禄という当時の庶民は、こういう奇行をなす男女があると、唄にしたり、劇に仕組んだり、大仰おおぎょうに美化して、それを麻痺した生活の刺戟にしたり、酒のさかなに興じたりした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄は帰って来るだろうか?——そう思うと彼は電報に、もっと大仰おおぎょうな文句を書いても、好かったような気がし出した。母は兄に会いたがっている。が、兄は帰って来ない。その内に母は死んでしまう。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
誰もそれを卑怯だとも、大仰おおぎょうに過ぐるとも笑う者がない。