境界さかい)” の例文
それから駒形に接近した境界さかいにこれも有名だった伊阪いざかという金物屋かなものやがある(これは刃物が専門で、何時いつでも職人が多く買い物に来ていた)
前は、黒板塀で境されて居たが、右隣りと左隣りの境界さかいには、槙の木がまばらに植えられてあるだけで、自由に出入りすることが出来た。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
また、中室との境界さかいには、装飾のないいかめしい石扉いしどが一つあって、かたわらの壁に、古式の旗飾りのついた大きな鍵がぶら下っていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
車道と人道の境界さかいに垂れたる幾株の柳は、今や夢より醒めたらんように、吹くともなき風にゆらぎめて、凉しき暁の露をほろほろと、こぼせば
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此の藤木川のながれが、当今静岡県と神奈川県の境界さかいになって居ります。千歳川のしも五所ごしょ明神という古いやしろがあります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
色々な文献に残存しておりまして、世人を半信半疑の境界さかいに迷わせておりますが、そのような実例を、只今申しました正木先生独創の学理に照してみますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
假初ながら十日ごしも見馴れては他處よその人ともおもはれぬに、歸るに家なしとかいひし一言のあやしさをおもへば、いづれ普通なみならぬ悲しき境界さかいをさまよふにこそ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
禁令の打撃に長閑のどかな美しい戯作げさくの夢を破られなかった昨日きのうの日と、禁令の打撃に身も心も恐れちぢんだ今日きょうの日との間には、劃然かくぜんとして消す事のできない境界さかいができた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幾年いくとせかにまたが賊徒ぞくと征伐せいばついくさ旅路たびじに、さながらかげかたちともなごとく、ただの一にちとしてきみのおそばはなれなかった弟橘姫おとたちばなひめなみだぐましい犠牲ぎせい生活せいかつは、じつにそのとき境界さかいとしてはじめられたのでした。
あとでおじいさんからうけたまわるところによると、わたくしというものはそのときすっかり御幣ごへいなかはいってしまったのだそうで、つまり御幣ごへい自分じぶんか、自分じぶん御幣ごへいか、その境界さかいすこしもわからなくなったのでございます。