唐錦からにしき)” の例文
あるものは袖口そでぐちくくった朱色の着物の上に、唐錦からにしきのちゃんちゃんをひざのあたりまで垂らして、まるで錦に包まれた猟人かりゅうどのように見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この竹取の絵は巨勢こせ相覧おうみの筆で、ことば書きは貫之つらゆきがしている。紙屋紙かんやがみ唐錦からにしきの縁が付けられてあって、赤紫の表紙、紫檀したんの軸で穏健な体裁である。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さかいなどの唐綾からあや唐錦からにしき唐刺繍からぬいものたぐいから、まだ一般いっぱんには珍しいゴブラン、印度金紗インドきんしゃ、南蛮織のあらゆる物まで、あつめてそのすいらしたものだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜田たつただの唐錦からにしきだのと名を附けて、朝夕その頭数を勘定しているような世中よのなかになっては、もうカワセミも安閑あんかんとして、ヒイーなどとは啼いてはいられないのである。
見渡せば正面に唐錦からにしきしとねを敷ける上に、沈香ぢんかう脇息けふそくに身を持たせ、解脱同相げだつどうさう三衣さんえした天魔波旬てんまはじゆんの慾情を去りやらず、一門の榮華を三世のいのちとせる入道清盛、さても鷹揚おうやうに坐せる其の傍には
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
みどりゆる唐錦からにしき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
それは清涼殿せいりょうでんのことで、西の後涼殿の縁には殿上役人が左右に思い思いの味方をしてすわっていた。左の紫檀したんの箱に蘇枋すおうの木の飾り台、敷き物は紫地の唐錦からにしき帛紗ふくさは赤紫の唐錦である。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
野路のじや空、月のなかなる花野はなの惜気おしげも無く織り込んだつづれの丸帯にある。唐錦からにしき小袖こそで振袖ふりそでれ違うところにある。——文明の詩は金にある。小野さんは詩人の本分をまっとうするために金を得ねばならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青葉若葉の木がくれに、紅白ののぼりだの、唐錦からにしきばんだの、榊葉さかきばをくくりつけた馬出うまだしの竿さおだの、人間で埋められた入口も見えはじめた。家成の古車は、そのときもう無数の他の牛車に押しもまれていた。