あつ)” の例文
さる程にわれ、今朝の昧爽まだきより心地何となく清々すが/\しきを覚えつ。小暗をぐらきまゝに何心なく方丈の窓を押し開き見るに、思はずあつと声を立てぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『あれッ!』『あれッ、新坊さんが!』と魂消たまげつた叫聲さけびごゑが女兒らと智惠子の口から迸つた。五歳の新坊が足を浚はれて、あつといふ間もなく流れる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
かすみ駈出かけいだすに平兵衞も是はと驚きにげんとなしたるうしろより大袈裟おほげさに切付ればあつと叫びて倒るゝを起しも立ずとゞめの一刀を刺貫さしつらぬ懷中くわいちうへ手を差入れ彼穀代金百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一つつまんで見てあつと心に叫びぬ。南無三、此は葉巻だ、喫煙室に葉巻の接待はさうあるべき筈。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
夕間暮ゆふまぐれなるまゆかげびんもつれたが、目鼻立めはなだちも判明はつきりした、容色きりやうのいゝのを一目ひとめると、あつ、と其處そこ飛脚ひきやく尻餅しりもちいたも道理だうりこそ。一昨年をとゝしくなつた女房にようばうであつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あつ!」
『アレツ!』『アレツ、新坊さんが!』と魂消たまぎつた叫声さけび女児こどもらと智恵子の口からほとばしつた。五歳いつつの新坊が足をさらはれて、あつといふ間もなく流れる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
とほれと脇腹わきばら愚刺ぐさと計りに差貫さしつらぬけば何ぞたまらん庄兵衞はあつと叫も口の中押へ附られ聲出ず苦き儘にもがきけるをお光は上へまたがりて思ひの儘にゑぐりければ七てんたうふるは虚空こくう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と見ると、今迄忠志君の歩いて居たあたりを、三台の荷馬車が此方こちらへ向いて進んで来る。浪が今しも逆寄さかよせて、馬も車も呑まむとする。あつと思ツて肇さんは目を見張ツた。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)