向合むかいあ)” の例文
気合があらたまると、畳もかっと広くなって、向合むかいあい、隣同士、ばらばらと開けて、あわいが隔るように思われるので、なおひしひしと額を寄せる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親子三人向合むかいあって、黙って暫く泣いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
次いで、四日とたないうちに、小川写真館の貸本屋と向合むかいあった店頭みせさきに、三人の影像が掲焉けつえんとして、金縁の額になって顕われたのであるから。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
発菩提心!……向合むかいあった欄干の硝子ビイドロの船に乗った美女の中には、当世に仕立てたらば、そのお冬さんに似たのがたしかに。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたは知らないのか、と声さえはばかってお町が言った。——この乾物屋と直角に向合むかいあって、蓮根れんこんの問屋がある。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉の円髷ばかり、端正きちんとして、とおりを隔てて向合むかいあったので、これは弱った——目顔めがお串戯じょうだんも言えない。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何と御坊ごぼう。——資治卿が胴袖どてら三尺さんじゃくもしめぬものを、大島守なりで、馬につて、資治卿の駕籠かごと、演戯わざおぎがかりで向合むかいあつて、どんなものだ、とニタリとした事がある。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
思わず、私が立停たちどまると、向合むかいあったのが両方から寄って、橋の真中まんなかへ並んで立ちました。その時莞爾にっこり笑ったように見えたんですが、すたすたと橋を向うへ行く。跣足はだしです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人がおのおの手に一冊ずつ本を持って向合むかいあいの隅々すみずみから一人ずつ出て来て、中央まんなかで会ったところで、その本を持って、下の畳をパタパタ叩く、するとただ二人で、叩く音が、当人は勿論もちろん
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたかもこの時であった。居る処の縁を横にして、振返ればななめ向合むかいあう、そのまま居れば、うしろさがりに並ぶ位置に、帯も袖も、四五人の女づれ、中には、人いきれと、温気うんきにぐったりとしたのもある。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの、小女こおんなが来て、それから按摩のあらわれたのは、蔵屋くらやと言ふので……今宿つて居る……此方こなたは、鍵屋かぎやと云ふ……此のとうげ向合むかいあつた二軒旅籠の、峰を背後うしろにして、がけ樹立こだちかげまつたさみしい家で。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)