台所だいどこ)” の例文
旧字:臺所
火事できのこが飛んで来たり、御茶おちゃ味噌みその女学校へ行ったり、恵比寿えびす台所だいどこと並べたり、或る時などは「わたしゃ藁店わらだなの子じゃないわ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絹足袋の、しずかな畳ざわりには、客の来たのを心着かなかった鞠子のおさんも、旦那様の踏みしだいて出る跫音あしおとに、ひょっこり台所だいどこから顔を見せる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「手襷たすきんなさい、忙がしかろうが、何もお前は台所だいどこを働かんでも、一切道具ばかり取扱ってればいんだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四日程逗留とうりゅうして、台所だいどこをしたり、裁縫しごと手伝てつだったり、折から不元気で居た妻を一方ならず助けて往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まあ台所だいどこで使う食卓ちゃぶだいか、たかだかあら鉄瓶てつびんぐらいしか、あんな所じゃ買えたもんじゃありません」と云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いえもうきたない姿で……何うかお邪魔に成りませんお台所だいどこの隅にでもおかしなさって、今居ります安泊りのような、あんな穢いとこに居るものでございますから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どっぷり沈んで、遠くで雨戸を繰る響、台所だいどこをぱたぱた二三度行交いする音を聞きながら、やがて洗い果ててまた浴びたが、湯の設計こしらえは、この邸に似ず古びていた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此夕台所だいどこで大きな甘藍きゃべつはかりにかける。二貫六百目。肥料もやらず、移植いしょくもせぬのだから驚く。関翁が家の馳走ちそうで、甘藍の漬物つけもの五升藷ごしょういも馬鈴薯じゃがいも)の味噌汁みそしるは特色である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
巡「別にうちもございませんから、お寺様のお台所だいどこかして戴いたり寺中じちゅう観音かんおんさまのお堂のお縁端えんばたへ寐たりいたして、何処と云ってさだまった家はありません」
風吹き通す台所だいどこに切ってある小さなに、木片こっぱ枯枝かれえだ何くれとされる限りをくべてあたっても、顔は火攻ひぜめせな氷攻こおりぜめであった。とめやが独で甲斐々々しくけ廻った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さあ、飲めってえ、と、三人で遣りかけましたが、景気づいたから手明きの挽子どもを在りったけよんで来た。薄暗い台所だいどこを覗く奴あ、音羽から来る八百屋だって。こっちへ上れ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向後きょうこう稼業かぎょうを構うと云われては困ります、何も銭金をお貰い申しに参った訳ではありませんから、当期此方の台所だいどこの隅へ置いて下さい、五年掛るか十年掛るか知れませんが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お客様の御馳走ごちそうだって、先刻さっき、お台所だいどこで、魚のお料理をなさるのに、小刀ナイフでこしらえていらしった事を、私、帰ってお饒舌しゃべりをしましたら、おっかさんが、まあ、何というお嬢様なんだろう。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
助「時に親方、つかん事を聞くようだが、先頃尋ねたおり台所だいどこにいたのは親方のおふくろさんかね」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父親は台湾とやら所在分らず、一人有ったが、それも亡くなった叔父の女房で、蒟蒻島こんにゃくじまで油揚の手曳てびきをしていた。余り評判のよくない阿婆おばあが、台所だいどこから跨込またぎこんで、帳面を控えて切盛する。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
林「何うしてお前さんの喰欠こいかけを半分うて見てえと思ってゝも、喰欠こいかけを残した事がねえから、そっ台所だいどこにお膳が洗わずにある時は、洗った振りをしてめて、拭いてしまって置くだよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おいで、」と言うや否や、ずいと立ってくだん台所だいどこの隔ての障子。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隅「いゝえ、よくないよ、そら/\危ない、何処どこへ、彼方あっちがお台所だいどこかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)