叫喚きょうかん)” の例文
それは自分を励ました声と、許褚きょちょは彼のそばを去るや否、馬をとばして、そこへ馳けつけ、叫喚きょうかん一声、血漿けっしょうけむる中へ躍り入った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その混乱も、今度のは歓呼や笑いの爆発ではありません。恐怖に引き裂かれたように、世にも恐ろしい叫喚きょうかんの大混乱です。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
初めは呻吟しんぎん、中頃は叫喚きょうかん、終りは吟声ぎんせいとなり放歌となり都々逸どどいつ端唄はうた謡曲仮声こわいろ片々へんぺん寸々すんずん又継又続倏忽しゅっこつ変化みずから測る能はず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「な、な、な、なにをしおった?」と、居間から旦那様の叫喚きょうかん! つづいて廊下をずしんずしんと旦那様の巨躯きょくがこっちへ転がってくる気配がした。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間どもの叫喚きょうかんは刻一刻に熱した、二つの犬はすきを見あって一合二合三合、四合目にがっきと組んで立ちあがった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そうして生きながら焼かれる人々の叫喚きょうかんの声が念仏や題目の声に和してこの世の地獄を現わしつつある間に
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
通りの方から恐ろしい、やけ半分みたいな叫喚きょうかんが鋭く彼の耳にまで伝わってきた。もっとも、それは毎晩二時過ぎに、窓の下あたりでよく聞いたものである。
南無八幡なむはちまん! と瞑目めいもくして深く念じて放ちたる弦は、わが耳をびゅんと撃ちて、いやもう痛いのなんの、そこら中を走り狂い叫喚きょうかんしたき程の劇痛げきつうに有之候えども
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
回転する鉄棒、ベルト、歯車、野獣の様な叫喚きょうかんげる旋盤機や巨大なマグネットの間を、一人の労働者に案内されながら私達は油のこぼれた場所を探し廻った。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
拍手はくしゅが起り、すると、花火があがって、何か沸々ふつふつとたぎるような音がしはじめ、眼下に見下される町の中から叫喚きょうかんの声がとどろきはじめると見る間に、町はきたち
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
四辺の岩石を黄色に染めている叫喚きょうかん地獄や邪見地獄の上の、硫気が絶えずなびいて行くあたりにある赤松の葉色が、取わけ鮮麗な緑色を呈しているのも面白い研究資料であろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
袴野はボロきれを取り除いて、その死体の顔をあらため、殆ど叫喚きょうかんに似た奇声があげられた。
雑然とした物音や叫喚きょうかんや、はなやかな水着の色彩の残像がちらちらと混りあっているような気分のまま、ぶらぶらと電車通りを歩いて、水道橋駅のプラット・ホームに出た。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
けん間口まぐち、大戸前の表の戸を、すっかり下ろして、灯という灯を、ことごとく消してしまった、米問屋に向って、バラバラとうりつけ、すさまじい憎悪の叫喚きょうかんをつづけている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
火柱が出現したからでもあろう、甲府城下のあちこちから、叫喚きょうかんの声が湧き起こった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでも常はたしなみのある品の良い婆さんなのだが、何がさて一方ならぬヒステリイで、狂い出すと気違い以上に獰猛どうもうで三人の気違いのうち婆さんの叫喚きょうかんが頭ぬけて騒がしく病的だった。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
やがて、酒宴と舞踏は深まった。威勢良き群衆は合唱から叫喚きょうかんへ変って来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とき/″\本丸の中へ真っ黒なかたまりになって雪崩なだれ込むのを、味方は必死に喰い止めて、どっと二の丸の方へ押し返し、突き崩し、虐殺と、怒号と、砲声と、叫喚きょうかんと、物のメリメリ破壊され
さすが各目てんでに名を恥じて、落ちたる市女笠、折れたる台傘、飛々とびとびに、せなひそめ、おもておおい、膝を折敷きなどしながらも、嵐のごとく、中の島めた群集ぐんじゅ叫喚きょうかんすさまじき中に、くれないの袴一人々々
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄の餌食えじきに投げ出すか知れないと思いつつ……馬鹿馬鹿しいくらい荘厳な全工場の、叫喚きょうかん、大叫喚を耳に慣れさせつつ……残虐を極めた空想を微笑させつつ運んで行く、私の得意の最高潮……。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
叫喚きょうかんだ。血しぶきだ。朱硯しゅすずりを叩き割ったように、血が、ザッとおとして噴火のように飛ぶ。いわゆる断末魔というやつ。このウーム! ウーム! という声は、何とも言われない恐ろしいものだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前後にいた護衛の者達は、叫喚きょうかんをあげて左右に逃げた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
今にも殺されそうな、真にせまった叫喚きょうかん
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女湯は一種の叫喚きょうかんちまたを現出して居る。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
苦しみを受け叫喚きょうかんすること辺際へんさい無し
相搏あいう叫喚きょうかんと宵の血戦を余儀なくされたが、やがて遠く官軍を追いしりぞけ、同勢ことごとく、白龍廟のほとりから船上へ乗り移った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲鳴とも叫喚きょうかんともつかない市民の声にまじって、低い、だが押しつけるようなエネルギーのある爆音が、耳に入った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さてさて、たわけた牛ではある。川に小便をするとは、もったいない。むだである。畑にしたなら、よい肥料になるものを。」と地団駄じだんだ踏んで叫喚きょうかんしたという。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ゴルドンは声をかぎりにさけんだ、だがその声は、すぐおどろきの叫喚きょうかんにかわった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
地獄の沿道には三途さんずの川、つるぎの山、死出しでの山、おいさか賽河原さいのかわらなどがあり、地獄には叫喚きょうかん地獄、難産地獄、無間むげん地獄、妄語地獄、殺生せっしょう地獄、八万はちまん地獄、お糸地獄、清七地獄等々があって
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
阿鼻あび地獄。叫喚きょうかん地獄。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
功利に動き、功利のために節を売り、功利のために戦っている無数の叫喚きょうかんを、あわれむもののように、皮肉な微笑をたたえているのだった。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしていきおすざまじく、井戸の中に落ちていった。夫への最後の贈物だ。——ちょっと間を置いて、何とも名状めいじょうできないような叫喚きょうかんが、地の底から響いてきた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
枕の下に、すさまじい車輪疾駆しっく叫喚きょうかん。けれども、私は眠らなければならぬ。眼をつぶる。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
夜空はいよいよ真っ赤にげただれるばかりだった。波の音か、人間の叫喚きょうかんか、すさまじい烈風が飛沫しぶきを捲き、砂をとばした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、突然向うの通りに、叫喚きょうかんが起った。人が暴れだしたのかと思ってよく見ると、これは警官だった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひとみをこらしてみつめていると、ときおり、おもてをなでてくる微風びふうにまじってかすかな叫喚きょうかん……矢唸やうなり……呼子笛よびこぶえ……激闘げきとう剣声けんせい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声が終るが早いか、叫喚きょうかんと共に卓子と椅子とがぶつかったり、転ったりする音が喧しく響いた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、たちまちそれらの叫喚きょうかんも、また煙の中のみたいな将士の人影も、火つむじの底に没して火屑ひくずと共に吹き散らされる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほっと一息ついて、皆の様子をうかがうと、あっちでもこっちでもものすごい怒号どごう叫喚きょうかんばかり。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ジリジリと瓦のさんに足の指をかけて詰め寄ると、かれは、四囲の叫喚きょうかんも耳になく、八方の御用提灯も目にないものの如く
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕のまわりから、また土煙のたちのぼる地底からも、あわれな叫喚きょうかんがあがって来た。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一上一下、叫喚きょうかん数十ごう、まだ相互とも一滴の血を見るなく、ただ真っ黒な旋風をえがいては、またたちまちもとの三すくみのめ合いとなった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
激しい叫喚きょうかんと物の壊れる音とがゴッチャになって、階下から響いてきた。出口にいた城山刑事にさえぎられて、怪漢は逃げ場を失い、そこで三人入乱いりみだれての争闘が始まっているのであろう。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悲鳴ひめい! 叫喚きょうかん! 子をかばい、親をだいて、砂けむりをあげる人情地獄にんじょうじごく。それはおもても向けられない砂ほこりであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄工場には、官設といわず、民間会社と云わず、三千度の溶鉱炉が真赤に燃え、ニューマティック・ハンマーが灼鉄しゃくてつを叩き続け、旋盤せんばん叫喚きょうかんに似た音をたてて同じ形の軍器部分品をけずりあげて行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
片桐与三郎、千田主水など、あっというまに、枕をならべて仆れ、岩越次郎左衛門や秋田加兵衛も、たたかいたたかい、血けむりの叫喚きょうかんのなかに姿を没し去った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゃがれた、空虚な叫喚きょうかんが、暗闇の中に、ぶつかり合った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
同時に、大音声で何か敵へ云ったが、あたりの叫喚きょうかんや炎の音で、到底、ことばの意味はとどかない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼前の阿鼻叫喚きょうかんなど、信長の眼にも耳にも、何ものでもない。この信長ならで、誰がこれをなしきろう。天は今日信長をこの土に生ませて、やれとお命じになっておるのだ
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)