出立いでたち)” の例文
うりに參らんといましちより受出して來たる衣服いふくならび省愼たしなみの大小をたいし立派なる出立いでたちに支度なして居たる處へ同じ長家に居る彼張子かのはりこ釣鐘つりがね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
洋服出立いでたちで鉄砲をもった若い男三四人、それに兎だの鴨だの一ぱい入れた網嚢あみぶくろかついだ男が一人——此れは島の者だ——どやどや騒いで立って居る。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
従うはただ家臣だけである。重昌その日の出立いでたちは、紺縅鎧こんおどしのよろいに、金の采配を腰に帯び、白き絹に半月の指物さし、当麻とうまと名づける家重代の長槍をって居た。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
みな歴々の女房衆にてましませば、肌にはきやうかたびら、色よき小袖うつくしく出立いでたち、少しも取みだれず神妙也。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されど自慢の頬鬢掻撫かいなづるひまもなく、青黛の跡絶えず鮮かにして、萌黄もえぎ狩衣かりぎぬ摺皮すりかは藺草履ゐざうりなど、よろづ派手やかなる出立いでたちは人目にそれまがうべくもあらず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
黒羽二重くろはぶたえの紋付と云う異様な出立いでたちをした長田秋濤おさだしゅうとう君が床柱に倚り掛かって、下太りの血色の好い顔をして、自分の前に据わっている若い芸者と話をしていた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
梅花道人ばいくわだうじんの三人が揃つて行かうといふを幸ひ四人男出立いでたちを定め維時これとき明治廿三年四月の廿六日に本願の幾分を果すはじめの日と先づ木曾街道を西京さして上る間の記を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
五十いそぢあまりの武士もののべ廿はたちあまりの同じ出立いでたちなる、六八日和にわはかばかりよかりしものを、明石より船もとめなば、この六九朝びらきに七〇牛窓うしまど七一とまりは追ふべき。
わしはその時、白麻の背広に、白靴、パナマ帽という出立いでたちであったが、そのパナマをまぶかくし、大型のハンカチで鼻から下をスッポリと覆面して、例の黒眼鏡をはずした。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
持物蕩楽なる金満家の主人にして若し小間物屋の店の者にでも見せたらばかゝる紳士を得意にししと必ずよだれを流すならん、何故なにゆえかくも立派に出立いでたちしや、余は不審の思いを為し
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
もとより脛巾はばき足袋たび藁沓わらぐつなどは申すに及びません。これが野良のらで働く出立いでたちであります。京の大原女おはらめは名が響きますが、御明神の風俗はそれにも増して鮮かなものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しばしは物のわけも聞えざりけり、世におはしし時は、花やかなる有さまにて有べきが、昨日は今日に引かはり、白き出立いでたちの外はなし、若君姫君をお乳人めのとにも、はやそひまいらせず
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よほど遠くから出て来るものと見え、いつでもわらじ脚半掛きゃはんが尻端折しりはしおりという出立いでたちで、帰りの夜道の用心と思われる弓張提灯ゆみはりちょうちんを腰低く前で結んだ真田さなだの三尺帯のしりッぺたに差していた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彷徨うろつきながら、見ぬ振をして横目でチョイチョイ見ていると、お糸さんが赤いたすきに白地の手拭を姉様冠あねさまかぶりという甲斐々々しい出立いでたちで、私の机や本箱へパタパタと払塵はたきを掛けている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
来たなと思ったが仕方がないから懐手ふところでをして、柱にもたれていた。五六人は見る間に、同じ出立いでたちに着更えて下りて行った。あとからまた上がってくる。また筒袖になって下りて行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鳥が鳴くあづまの旅に丈夫が出立いでたち将行ゆかん春ぞ近づく
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
凜々りゝしくたいして如何にも立派なる武士さぶらひ出立いでたちたりしかば是はと驚きさう云事いふことなら是非に及ばずと云直いひなほし早々此家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
月を負ひて其の顏は定かならねども、立烏帽子に綾長そばたか布衣ほいを着け、蛭卷ひるまきの太刀のつかふときをよこたへたる夜目よめにもさはやかなる出立いでたちは、何れ六波羅わたりの内人うちびとと知られたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
三四郎は此出立いでたちで、与次郎と二人ふたりで西洋軒の玄関に立つてゐた。与次郎の説によると、御客はうして迎へべきものださうだ。三四郎はそんな事とは知らなかつた。第一自分が御客のつもりでゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
京の町々を歩くと、珍らしくも紺絣こんがすりの着物に前垂掛まえだれがけ、頭には手拭てぬぐい、手には手甲てっこう、足には脚絆きゃはん草鞋わらじ出立いでたちで、花や柴木を頭に山と載せ、または車に積んで売り歩く女たちの姿を見られるでしょう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
懷中くわいちうなし甲斐々々かひ/″\しき出立いでたちにて逃出さんとするところへ火事騷くわじさわぎの中なれ共家主吉兵衞きちべゑは大切の囚人めしうどの女房ゆゑ萬一取逃とりにがしもせば役儀やくぎかゝると駈着かけつけ來りいま逃出んとするお政を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)