信玄袋しんげんぶくろ)” の例文
汽車の中で森成もりなりさんが枕元まくらもと信玄袋しんげんぶくろの口にし込んでくれた大きな野菊の枝は、降りる混雑の際に折れてしまったろう。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大降おほぶり小降こぶり幾度いくどあめれ、おまけに地震ぢしんにあつた、裾短すそみじか白絣しろがすりあかくなるまで、苦労くらうによれ/\のかたちで、くろ信玄袋しんげんぶくろ緊乎しつかりと、巌丈がんぢやう蝙蝠傘かうもりがさ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
バスケットも、ちらほら見える。ああ、信玄袋しんげんぶくろというものもこの世にまだ在った。故郷を追われて来たというのか。
座興に非ず (新字新仮名) / 太宰治(著)
手近に置くべきもの丈を入れた信玄袋しんげんぶくろは自分で持つて行く。行李かうりはあとから落着いた先へ送つて貰ふことにした。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
トランク、信玄袋しんげんぶくろ、亀の子煎餅せんべい、バナナ籠、風呂敷包み……その下から出て来た、ビラの付かないズックの四角い鞄の中から受話器を取出して耳に当てた。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「歩く! しまいまで歩く!」と言って丈の高い商人風の客は大きい信玄袋しんげんぶくろをさげた。
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
小さなバスケットや信玄袋しんげんぶくろの中から取り出した残りものの塩せんべいやサンドウイッチを片付けていた生徒たちの一人が、そういうものの包み紙を細かく引き裂いては窓から飛ばせ始めると
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
往来の真中で花袋がむくれて信玄袋しんげんぶくろほうり出す場面があるんだ。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
水色の眼鏡は蝦夷錦えぞにしき信玄袋しんげんぶくろより瓶詰びんづめの菓子を取りいだ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「何だい」と立って行くと彼女はどこからか、大きな信玄袋しんげんぶくろ引摺ひきずり出して、「これお貞さんのよ、見せたげましょうか」と自慢らしく自分を見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手近に置くべきもの丈を入れた信玄袋しんげんぶくろは自分で持つて行く。行李はあとから落着いた先へ送つて貰ふことにした。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
ぶんだけは、鰐皮わにがは大分だいぶふくらんだのを、自分じぶん晝夜帶ちうやおびから抽出ひきだして、袱紗包ふくさづつみと一所いつしよ信玄袋しんげんぶくろ差添さしそへて
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
着物きものは、ちやつた、おなじやうながらなのをて、阿母おふくろのおかはりにつた、老人としよりじみた信玄袋しんげんぶくろげた、朱鷺色ときいろ襦袢じゆばん蹴出けだしの、内端うちわながら、なまめかしい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうとした信玄袋しんげんぶくろは、かへりみるにあまりにかるい。はこせると、ポンと飛出とびだしさうであるから遠慮ゑんりよした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
箱根土産はこねみやげの、更紗さらさちひさな信玄袋しんげんぶくろ座蒲團ざぶとんそば持出もちだして、トンといて
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひざせた信玄袋しんげんぶくろゆゑである。ねがはくはこれを謙信袋けんしんぶくろあらためたい。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)