二重瞼ふたえまぶた)” の例文
けれど私に、いつまでも忘れられぬのはその眼であった。いくらか神経質な、二重瞼ふたえまぶたの、あくまでも黒い、賢そうな大きな眼であった。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
温厚なる二重瞼ふたえまぶたと先が少々逆戻りをして根に近づいている鼻とあくまでくれないに健全なる顔色とそして自由自在に運動をほしいままにしている舌と
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何いかにも色の白かったこと、眉が三日月形に細く整って、二重瞼ふたえまぶたの目が如何にも涼しい、面長な、鼻の高い、瓜実顔うりざねがおであったことを覚えている。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
睫毛まつげの濃い、張りのある二重瞼ふたえまぶた、青々と長い三日月まゆ、スッキリした白い鼻筋、あか耳朶みみたぼ背後うしろから肩へ流れるキャベツ色の襟筋えりすじが、女のように色っぽいんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おだやかな眉弓の下にある両眼は、所謂いわゆる「目玉の成田屋」ときく通り、驚くべき活殺自在の運動をった二重瞼ふたえまぶたの巨眼であって、両眼は離れずにむしろ近寄っている。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
と同時に眼鼻立ちは、愛くるしかるべき二重瞼ふたえまぶたまでが、遥に初子より寂しかった。しかもその二重瞼の下にある眼は、ほとんど憂鬱とも形容したい、うるんだ光さえたたえていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
厚味のあるくちびる、唇の両脇で二段になった豊頬ほうきょう、物いいたげにパッチリ開いた二重瞼ふたえまぶた、その上に大様おおよう頬笑ほほえんでいる濃いまゆ、そして何よりも不思議なのは、羽二重はぶたえ紅綿べにわたを包んだ様に
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丸顔で色が白く、まつげの長い二重瞼ふたえまぶたの大きい眼の眼尻が少しさがって、そうしていつもその眼を驚いたみたいにまんまるく睜って、そのため額にしわが出来て狭い額がいっそう狭くなっている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たった一人年寄子としよりごでおとみと云う娘がございましたがごく別嬪べっぴんでございます、年は十八に相成りますが、誠に世間でも評判のい娘で、少し赤ら顔のたちだが、二重瞼ふたえまぶたで鼻筋の通った、口元の可愛らしい
その時三四郎は美禰子の二重瞼ふたえまぶたに不可思議なある意味を認めた。その意味のうちには、霊の疲れがある。肉のゆるみがある。苦痛に近き訴えがある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羽織袴はおりはかまを着けている三十恰好かっこうの男はくりくりした二重瞼ふたえまぶたの、鼻の下のひげを短く刈っていたりするのが、あとの四十年配の洋装の男よりも安っぽく思われた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その眼の前の零下二十度近い空気を凝視している二重瞼ふたえまぶたと、青い、澄んだ瞳には何等の表情も動かなかった。ただその細長い、細い、女のような眉毛だけが、苦痛のためであろう。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唇からは全く血の気が失せ、二重瞼ふたえまぶたの両眼が、飛び出すのではないかと見開かれた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは白い——と云うよりもむしろ蒼白い顔の色に、ふさわしい二重瞼ふたえまぶただった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二重瞼ふたえまぶたの大きな眼を見張っている。鼻筋が真直まっすぐに通っている。色が赭黒あかぐろい。ただの坑夫ではない。突然として云った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高くて広い額、ふさふさとした黒髪、二重瞼ふたえまぶたのすき通るような眼、ギリシャ型の高い鼻、赤くて引きしまった唇。その青年が美男であればあるだけ、しかし、早苗さんは恐ろしかった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
栗色の夥しい渦巻毛うずまきげを肩から胸まで波打たせて、黄色い裾の長いワンピース式の印度服を着ている。灰色の青白い光沢を帯びた皮膚に、濃い睫毛まつげに囲まれた、切目の長い二重瞼ふたえまぶた、茶色の澄んだ瞳。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だって、まだあるんですもの」と針の針孔めど障子しょうじへ向けて、可愛かわいらしい二重瞼ふたえまぶたを細くする。宗近君は依然として長閑のどかな心を頬杖に託して庭をながめている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この目の恰好かっこうだの、二重瞼ふたえまぶたの影だの、ひとみの深さだの、なんでもぼくに見えるところだけを残りなく描いてゆく。すると偶然の結果として、一種の表情が出てくる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三千代は美くしい線を奇麗に重ねた鮮かな二重瞼ふたえまぶたを持っている。眼の恰好は細長い方であるが、ひとみを据えてじっと物を見るときに、それが何かの具合で大変大きく見える。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二重瞼ふたえまぶた切長きれながのおちついた恰好かっこうである。目立って黒い眉毛まゆげの下に生きている。同時にきれいな歯があらわれた。この歯とこの顔色とは三四郎にとって忘るべからざる対照であった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二重瞼ふたえまぶたに寄る波は、寄りてはくずれ、崩れては寄り、黒いひとみを、見よがしにもてあそぶ。しげき若葉をる日影の、錯落さくらくと大地にくを、風は枝頭しとううごかして、ちらつくこけの定かならぬようである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一座はどっとき出した。老人は首を少し上げて頭の禿をさかに撫でる。垂れ懸った頬の肉がふるえ落ちそうだ。糸子は俯向うつむいて声を殺したため二重瞼ふたえまぶたが薄赤くなる。甲野さんの堅い口も解けた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「よう、いらっしゃいました」と可愛らしい二重瞼ふたえまぶたを細めに云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)