下草したぐさ)” の例文
自分は日あたりを避けて楢林ならばやしの中へと入り、下草したぐさを敷いて腰をろし、わが年少画家の後ろ姿を木立ちのひまからながめながら、煙草たばこに火をつけた。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
割合に枝のまない所は、依然として、うららかな春の日を受けて、え出でた下草したぐささえある。壺菫つぼすみれの淡き影が、ちらりちらりとその間に見える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なかに一ところ湖神こしんもうけの休憩所きうけいしよ——応接間おうせつまともおもふのをた。村雨むらさめまたしきりはら/\と、つゆしげき下草したぐさけつゝ辿たどると、むやうな湿潤しつじゆんみぎはがある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
松の下は海辺にでも見るようなきれいな砂で、ところどころ小高い丘と丘との間には、青い草を下草したぐさにした絵のような松の影があった。夏はそこに色のこいなでしこが咲いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寄生木になつて栄えるはきらひぢや、矮小けち下草したぐさになつて枯れもせう大樹おほきを頼まば肥料こやしにもならうが、たゞ寄生木になつて高く止まる奴等を日頃いくらも見ては卑い奴めと心中で蔑視みさげて居たに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いたところはたけ玉蜀黍たうもろこしあひだからもさ/\とあかいて、おほきながざわ/\とひとこゝろさわがすやうると、男女なんによむれ霖雨りんうあと繁茂はんもしたはやし下草したぐさぎすました草刈鎌くさかりがまれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
くも黒髪くろかみごとさばけて、むねまとひ、のきみだるゝとゝもに、むかうの山裾やますそに、ひとつ、ぽつんとえる、柴小屋しばごや茅屋根かややねに、うす雨脚あめあしかつて、下草したぐさすそをぼかしつゝ歩行あるくやうに、次第しだい此方こちら
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)