上書うわがき)” の例文
と思い、重三郎に頼んで上書うわがきまで致して有る包金つゝみきんを胴巻からこき出して、そッと寝衣ねまきにくるみ、帯を締直して屏風の中から出ながら
封は切らぬから上書うわがきだけを見せろと云ったが、彼女は決して見せなかった。誰の手紙かといても、彼女はやはり強情に答えなかった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてそれ一つだけは、生命いのちがけで持っていたように、み苦茶になった手紙を、へその辺りから取り出し、上書うわがきの文字を星に透かして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は長い手紙をすその方から巻き返しながら、「何か用かね、また金じゃないか。金ならないよ」と云って、封筒に上書うわがきしたためた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そりゃもう、いずれおまんまでもべながら、ゆっくりせてもらおうが、まずふみ上書うわがきだけでも、ここでちょいと、のぞかせておくれでないか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
佳子は、無意識にそれを受取って、開封しようとしたが、ふと、その上書うわがきを見ると、彼女は、思わずその手紙を取りおとした程も、ひどい驚きに打たれた。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この手紙の上書うわがきにあるところへ届けてくれと申しました故、わたくしは何の気もなくお請合うけあいを致しました
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妾はもう少しで、絨氈じゅうたんの上へよろめいて倒れるところだった。まだ昨日の手紙だ。そして封筒の上書うわがきには、ちゃんと「小石川区水道端一丁目十二番地、並木五郎様」
串戯じょうだんじゃあねえ、紙包の上書うわがきばかり下目遣いで見てないで、ちッたあ御人体ごじんていを見て物をいねえ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「先ほどはすみません。おやすみのところを……。」と出入口のふすまに身をよせ掛け、「封筒の上書うわがきをかいて下さいな。すみませんけれど、男の手でないといけないんだから。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
些細な話であるが、「病牀六尺」を書いて、それを新聞社へ毎日送るのに状袋じょうぶくろに入れて送るその状袋の上書うわがきをかくのが面倒なので、新聞社に頼んで状袋に活字で刷つてもらふた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その上書うわがきに「貧病の妙薬、金用丸きんようがん、よろずによし。」と記して、不幸の妹に手渡した。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は小机を火鉢の脇へ移し、「青木さま」と上書うわがきのあるその手紙を、披いて読んだ。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「その手紙は中は白紙でも、上書うわがきがあるだろう。筆跡に心覚えはないのか」
書簡外箱上書うわがき和解
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その字が、野々宮さんのポッケットから半分はみ出していた封筒の上書うわがきに似ているので、三四郎は何べんも読み直してみた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御安心ごあんしんくださいまし。上書うわがきなんざ二のつぎ三のつぎ中味なかみからふうまで、おせんの相違そういはございません。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その願書には男女の別と年齢と、いつごろより患い出したかということと、何卒この病気癒させ給えという祈願とをしたため、上書うわがきには高坂様、或いは甚内様と記して奉る。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と云いながら手に取上げて上書うわがきを見ると、金百両石川藤左衞門娘みゑどのへ、許嫁稻垣小三郎よりと書いて有りましたから、また恟り、エヽと呆気あっけに取られ、オド/″\しながら
青い状袋の上書うわがきをじっと見ながら、片手を垂れて前垂まえだれのさきをつまんで上げつつ、素足に穿いた黒緒くろおの下駄を揃えて立ってたが、一寸ちょっとかえして、裏の名を読むと、顔の色が動いて、横目にかまちをすかして
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうかと思うと悪戯好いたずらずきの社友は、余が辞退したのを承知の上で、ことさらに余を厭がらせるために、夏目文学博士殿と上書うわがきをした手紙を寄こした。
「まあいいわ、この印籠の方だけ届けておいて、この手紙の上書うわがきは誰かに読んでもらいましょう、間の山へ行けば講釈の先生もいるわ、それでも遅いことはないでしょうと、わたし思う」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
細君は何年前か夫の所へ御常から来た長い手紙の上書うわがきをまだ覚えていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)