隻眼かため)” の例文
高い額と、高く長い鼻と、せばまつた眉の下でぢつと物を見入る大きな隻眼かためとを持つた彼れの顏は、その日は殊更らに緊張してゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
武士はいまだかつて隻眼かための仏像を見たことがなかったし、またあるべきはずもないと思ったので、眼のせいではないかと思って見なおした。しかし、やっぱり仏像の左の眼は潰れているのであった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼れは顯微鏡のカバーの上にうつすらたまつたほこり隻眼かためで見やりながら、實驗室に出入しなかつたこの十日間程の出來事を、涙ぐましく思ひかへしてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
「仏像も、和尚おしょうも、小僧も、隻眼かためとは何事だ、よくも揃ったものだ」
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼れは庭から來る照り返しを避けるやうに隻眼かためを細めながら、生氣の充ち溢れた自然の小さな領土を眺めやつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)