翌年あくるとし(明治四十二年)の春もなほ寒かりし頃かと覚えたりわれは既に国に帰りて父のいえにありき。上田先生一日いちにち鉄無地羽二重てつむじはぶたえ羽織はおり博多はかたの帯着流きながしにて突然おとづれ来給きたまへり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)