私語ささめ)” の例文
見物席のそこらここらから笑い私語ささめく声が聞えたが、有繋さすがは紅葉である、少しも周章とっちらないで舞台へ来ると、グルリと後ろ向きになって悠然ゆうぜんとして紺足袋を脱いだ。
心からにじみだす自分の声と彼女のいとのふるえとが、一つものに溶け合って、泣きもし、笑いもし、私語ささめきもし、恋以上のあらぬ情慾などはすっぱりと忘れてしまうのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)