曾無一善ぞうむいちぜん)” の例文
すでに曾無一善ぞうむいちぜんの裸の身と申しながら、またも一枚の着物を惜しみ……一面の琵琶を惜しむ、浅ましい心、それが無惨に蹂躙ふみにじられたのは、もとよりそのところでございます。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
びょうたるうつせみの一身を歩ませて、限りなき時間の波路を、今日も、昨日も、明日も、明後日も、歩み歩みて、曾無一善ぞうむいちぜんのわが身にかかる大能の情けの露にむせぶ者でなければ
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて釜無の川原——弁信法師が曾無一善ぞうむいちぜんの身に、またしんにゅうをかけられたところ。琵琶が虐殺されて、肝脳を吐いていたところ。与八のためには遮るものも、おびやかすものもなにも無い。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斯様に私を責めまする故に、私はそれならば、私が、今ここで裸になってごらんに入れましょう、古人は曾無一善ぞうむいちぜんの裸の身と申しました、裸になった私の身体からだをごらんになった上
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)